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《2004.2月−9》

本音ベースで語られるセックス賛歌
【昨日までのベッド (地人会)】

作:ベン・トラヴァース 演出:木村光一
17日(火) 18:35〜20:50 ももちパレス 3100円


 本音ベースで語られるセックス賛歌。戯曲は、その生々しさを軽いユーモアでまぶしているが、舞台はなぜか真正面から取り組まない”臭さ”がにおう。

 45歳で突然、性の快楽の悦びに目覚めてしまうアルマ。再婚したばかりの60歳の夫・ヴィクターは、その欲求に応えきれない。
 アルマは、男を誘惑し、果ては、夫を残してイタリアに男漁りの旅に出て行く。

 まあ、よくできた戯曲だ。ベン・トラヴァース89歳のときの作品というだけで、もう脱帽。
 一場20分くらいで、小気味よく展開していく無駄のない構成と、的確なセリフが心地いい。そのセリフがどんどん新しい状況を作り出し、そこで人物の思いとからむ。例えば、3人の下宿人とそセックスを楽しんでいる従姉妹・ペギーの話を聞いて、アルマがその気になるまで10分くらいしかかからないという手際のよさだ。
 ただ、内容が内容だけにそうすんなりとばかりはいかず、若干のいびつさは残る。アルマは夫と初セックスの翌日(!)、人気俳優・フレッドを誘惑する。回復時間から月1回〜2回のセックスしかできないと言っているヴィクターは、妻のいない3週間のあいだにペギーと2回も浮気をする。それでもふたりは互いを責めず、合体してハッピーエンドというのはやや強引だ。

 舞台の”臭さ”は、演出と演技のいずれにも顕れている。
 演出の”臭さ”。何とも陳腐なところを、観客迎合的な小技で逃げようとする。ヴィクターの息子の動きの、形の悪いオーバーアクションのなんと不自然なことだろう。相手の動きをなぞるような受けねらいの演出は、服装でいえばよけいなピラピラで、そんなもので観客の笑いを取ろうなどとは姑息だ。
 キャストのいびつさは、ストーリーを納得しがたいほどにひどい。アルマ(鳳蘭)と1回しかセックスしていないのに、ヴィクター(篠田三郎)は平気で彼女をイタリア浮気旅行に送り出し、誘惑されたとはいえいかにもかっこ悪いおばさんのペギー(北村昌子)と2回も浮気する。こんなひどい状況を、ものすごくセクシーな鳳蘭を目の前にして、どう理解しろというのだろうか。ヴィクターはバカじゃないかと思う、そんなキャスティングだ。

 どうなんだろう、この作品はファルスと思えばいいのか。でも、イタリアから挫折して帰ってアルマは、「いちばん恥ずかしいと思うのは、私のことを本気で愛する男がいるとうぬぼれていたこと」などという、ファルスらしくないシリアスなセリフもちゃんとある。それらが、もう一段大きく統合されるべきだろう。そうすれば、前記の不可解さも少しは解消されるかもしれない。不自然な”臭さ”は、ここでは”甘さ”の同義語だ。

 この舞台は福岡市民劇場2月例会作品で、10日から19日まで11ステージ。満席だった。


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