水谷龍二のみずみずしい魅力にあふれた舞台だ。
一見こじんまりだが、ていねいに描きだされた世界は、人の心の動きのくっきりと描き出す。単純なハッピーエンドでないのも納得できる。
どうしようもない兄と父親を抱えた水商売の娘(山田花子)と、純情な掃除屋の男(柳家花緑)が恋に落ちる。
その掃除屋、どうしようもないところを乗り越えようとがんばるが、それが娘との思いの違いをあらわにしてしまう。
この舞台、演出と演技を分けて考えることができないほどに、よく融合している。 素直で純情な掃除屋の、黙って状況を眺めているときの心の動きがポイントだ。
いまの父と兄の過去の確執が明かされることで、いまの状況はきっちりと理解できる。それが親子げんかとなって顕われるが、それがむかしの二人の関係をスクリーンに映し出されているといったことまで感じさせる。そんな娘の家庭のひどい状況に、掃除屋は男気を出して家族を立ち直らせたいと思うことになる。
そのような、人物の意識の流れがきっちりと書き込まれていて、さらに劇作家が演出することで、心の襞までをみごとに描き出した。
まず掃除屋が娘の兄と父に対して爆発して、二人に説教を始める。しかし、娘はそれを咎める。娘はの反応は掃除屋にとって意外だが、娘は父と兄を誹謗する者を許さない。そのずれの描き方は秀逸だ。
それで終幕の、娘家族がアパートを去っていくという掃除屋との別れはさらり。娘の思いは推し量れて、思いを残すその結末を、決して不十分な表現と感じさせないのがみごとだ。