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《2004.2月−15》

シンプルさにまで至る戯曲のみごとさ
【掃除屋 (トム・プロジェクト)】

作・演出:水谷龍二
26日(木) 19:00〜20:30 西鉄ホール 招待


 水谷龍二のみずみずしい魅力にあふれた舞台だ。
 一見こじんまりだが、ていねいに描きだされた世界は、人の心の動きのくっきりと描き出す。単純なハッピーエンドでないのも納得できる。

 どうしようもない兄と父親を抱えた水商売の娘(山田花子)と、純情な掃除屋の男(柳家花緑)が恋に落ちる。
 その掃除屋、どうしようもないところを乗り越えようとがんばるが、それが娘との思いの違いをあらわにしてしまう。

 この舞台、演出と演技を分けて考えることができないほどに、よく融合している。  素直で純情な掃除屋の、黙って状況を眺めているときの心の動きがポイントだ。

 いまの父と兄の過去の確執が明かされることで、いまの状況はきっちりと理解できる。それが親子げんかとなって顕われるが、それがむかしの二人の関係をスクリーンに映し出されているといったことまで感じさせる。そんな娘の家庭のひどい状況に、掃除屋は男気を出して家族を立ち直らせたいと思うことになる。
 そのような、人物の意識の流れがきっちりと書き込まれていて、さらに劇作家が演出することで、心の襞までをみごとに描き出した。

 まず掃除屋が娘の兄と父に対して爆発して、二人に説教を始める。しかし、娘はそれを咎める。娘はの反応は掃除屋にとって意外だが、娘は父と兄を誹謗する者を許さない。そのずれの描き方は秀逸だ。
 それで終幕の、娘家族がアパートを去っていくという掃除屋との別れはさらり。娘の思いは推し量れて、思いを残すその結末を、決して不十分な表現と感じさせないのがみごとだ。

 この舞台、福岡では1ステージ。ほぼ満席だった。


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