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《2004.4月−3》

理詰めの、荒事「鳴神」
【雪祭五人三番叟/鳴神 (前進座)】

構成:前進座
4日(日) 13:35〜16:50 ももちパレス 3100円


*** 推 敲 中 ***

 久々の前進座の歌舞伎は、その前進座らしい緻密さが楽しめたが、まとまりすぎていて歌舞伎の猥雑さが弱く、スケールが小さいかな、という印象を持った。
 出し物は、歌舞伎舞踊「雪祭五人三番叟」と、歌舞伎十八番の内「鳴神」と、華やかだ。

 「雪祭五人三番叟」(高瀬精一郎/構成、西川鯉三郎/作舞)は、事始の儀式に舞われる三番叟を、前進座として歌舞伎舞踊化したもの。猿がかった隈取をした5人がにぎやかに舞う。上演時間30分。
 「揉の段」は、5人による軽やかな舞で、ゆったりと楽しい気分にさせられる。  「翁」の舞は、神楽の雰囲気となったはじめに舞われ、祝祭の名残をとどめるが、短い。「おかめ」のユーモラスでちょっとばかり性的な舞踊が続く。
 「笠踊り」を5人そろってテンポよく踊り、「餅つき」では客席に紙に包んだ餅がまかれる。
 ラストは「鈴の段」。鈴を使った音的にも派手な舞だが、降りしきる雪の中で舞う姿は、幻想的でさえある。
 ただ全体としてはこじんまりなのは、中心にいる藤川矢之輔の、安定しているのはいいが、踊りに大きさがないことが影響している。下座などが生ではなくて録音というのも、こじんまりしたことに関係があるかもしれない。

 「鳴神」は、前進座らしい節度ある舞台だった。鳴神上人と雲の絶間姫の駆け引きの心理描写はみごとだが、もっと荒事らしいスケールの大きさがあってもよかった。
 洛北北山の滝つぼに龍神龍女を封じ込めて、雨を降らさなくしてしまった鳴神上人。それを色仕掛けで篭絡して封じ込めを解くべく、雲の絶間姫が送りこまれる。
 鳴神上人と雲の絶間姫のやりとりでドラマは進むが、そこが実にていねいに演出されていて、心理状態が手に取るようにわかるのがおもしろい。
 鳴神上人が超能力の持ち主であっても色には弱い、というのはいいとしても、姫を見ようと身を乗り出して壇上から落ちて気を失う(!)というのはいかにも荒唐無稽だが、荒事なればこそだろう。そんなことも気にならないほどの勢いがある。
 ただ、全体的にはこの舞台はあまりに理詰めなのが、荒唐無稽のおもしろさを阻害しているところもある。性の描写が、スマートというよりも中途半端で、もっと強調してもいい。
 変に歌舞伎調でない、いかにも現代語という明晰なセリフは、聞き取りやすかった。
 初めて見る河原崎国太郎(雲の絶間姫)はスッキリしていて、派手ではないが、そこはかな色気がある。

 この舞台は、福岡市民劇場の3月例会で、きょうは9日間、11ステージの千秋楽。満席だった。


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