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《2004.4月−5》

ひっぱるけれど、笑いの異化効果も
【花あかり ―天下分け目の女のいくさ― (松竹・博多座)】

作:松原敏春 脚本・演出:齋藤雅文
10日(土) 16:00〜20:00 博多座 4200円


 藤山直美主演の舞台は、楽しく暖かい雰囲気にあふれている。ユーモアにあふれながら、しっとりしたところもたっぷりと、独自の境地を開いている。
 サービスのボリュームもたっぷりで、芝居の楽しさを満喫した。

 大阪で急死した夫の遺骨を持って、夫の実家である東京・深川の材木問屋・藤沢商店にやってきた花(藤山直美)と弟の謙作(長江健次)。
 そこには、すべてを取り仕切っている女主人・いく(藤間紫)のもと、個性的な従業員たちがいたが、長兄・章義(田村亮)は商売に身が入らず、商店の内情は火の車だった。そのなかで、夫への思いを胸に無私の心で商店に尽くす花は、しだいになくてはならない存在になっていく。

 脚本は、徹底的にひっぱる。
 3幕の舞台だが、テーマは亡き夫への花の思い、それをそれぞれの幕のなかでしつこく追いかける。その思いがまわりを変えていき、そのことが倒産という悲劇を回避するところを納得するまで見せてくれる。ただ、亡き夫への思いが現実の男・銀之助に置き換わっていくところを、幻想的な夢のシーンで、これでもかというほどに見せる。
 クライマックスは嵐のシーン。町を救うために、花は大事な材木を流してしまうが、そのことがみんなを結束させ、店は生きのびる。普通ならここで終わりだろうが、この舞台ではそのあとにしつこいエピローグ。30年後の花見で、それぞれの人物の後日談が語られ、すっかり安心させてくれる。そして、桜が輝く”花あかり”があらわれる。徹底的に納得させるための駄目押しで、そこまでやる。

 演出は、ひっぱったり、藤山直美の笑いでうっちゃったりというパターンを、多様に組み合わせて、舞台が重っ苦しくならない工夫がされている。それは、藤山直美のパッと笑いに切り替える演技があればこそだが。
 その藤山直美の演技だが、けっこう長い、ややお涙頂戴で感動ねらいであるこの舞台では、どっちかというとホロリに重点があり、そのなかでユーモラスな軽さとの変わり身のよさの効果は出ている。しかしどっちかというとその演技はしっとりで、似ているといわれる父・寛美の、乾いていて厳しい演技とは少し質が違うように思う。寛美は、単純に見える喜劇のなかでレトリックを積み重ねて、別の世界を感じさせるところまで行っていた。
 藤間紫は相変わらず圧倒的な存在感だ。演技していると見えないようなすごさだ。元芸者の金貸しを演じる土田早苗がきっぷのいい演技、等々あるが、俳優それぞれに思いを語っていたらきりがないのでやめる。

 舞台の宣伝のためのあるだろう、藤山直美が地元テレビの番組に出ているのを見るのは楽しい。ベンガルや尾藤イサオや長江健次なども出てくれないだろうか。
 この舞台は2日から26日まで41ステージ。若干空席があった。


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