ほんとうに久しぶりに観る下松勝人のオリジナルは、この人らしいグロっぽさが楽しめた。明るいグロっぽさだ。
歌あり踊りありのいかにも開きっ放しという作りが、重苦しい情念を軽さと明るさで中和していて、それが独特の雰囲気を作っている。
現実にあった看護婦による保険金目あての殺人をモデルとしている。
その主人公で推進者であったユリ子は、医学の知識を使って仲間の家族を殺す。
この舞台なぜか、ひきつけられて見てしまう。
それは、モデルとなった事件についてそれなりに知っていること。そのことをどういう切り口で描くのかという興味。過去の嫉妬が引き金となって友人の夫を殺すが、結局は金が至上の動機となる。金を手に入れることが目的で、その金でどうするというのでもないという矛盾。サバサバとして、ユーモアさえも感じさせる舞台の印象は、このユリ子の目的喪失のためだろう。
大げさに言えば、命を救う技術を、命を奪うことに使ったという、倫理に反する衝撃的な行為を糾弾するということも可能なんだろうが、そのような視点は弱い。
青春ドラマ風だったり、実録風だったり、ミュージカル風だったりと、いろんな表現をダイナミックに組み合わせてあきさせない。大きな舞台ではないが、質は高い。
この舞台で下松勝人は本格復帰で喜ばしい。こんな舞台もいいが、さらに幅広く、解きほぐしきれない情念を暗く暗く描くような舞台も作ってもらいたいと思う。
この舞台は、小耳プロジェクト第2回公演で、きょう2ステージ。ほぼ満席で、40人くらいの観客だった。