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《2004.4月−9》

拡大鏡で覗く、そんな感じ
【ケ・イ・ジ (転球劇場)】

構成:転球劇場
17日(土) 19:05〜20:55 西鉄ホール 招待


 転球劇場の舞台は、リアルに現実を描きながら、そのリアルの裂け目を大きくさらけだすという手法が非常に斬新であるが、この作品についていえば裂け目はなく、むしろリアルを拡大鏡で拡大してみせたような手法だ。
 拡大鏡を通してだから、全体がリアルを離れて幻想とさえ見える。後半、大げさな思いそのままを極端に形にしてしまったことが許せるのも、そのような幻想と見える流れだからこそと思えなくもない。

 6世帯のアパートの、素朴で不器用で頭のよくない住人たちによる住人会議。
 階段の手すりの塗装のことなどの些細なことの、かなり的外れの議論が、話し合うことがレクレーションなんだと思うほどに延々と続く。

 住人はそれぞれ浮世離れしていて少しばかり奇矯で、知識が偏在している割に自説にこだわるかと思えば簡単に他人に同調したりと、普通の人を極端にしている。その話の内容も、勘違いや変なこだわりや言い訳などばかりといっていいどうでもいいことを、必死で議論するおかしさがある。そのようなクローズアップのしかたが拡大鏡を通していると見える理由だ。

 その世界がものすごくおもしろいのだ。人物の物言いは一見自然だが、内容はときに的外れでどっかに飛んでいく。それが言った人の個性とあいまって、なんともいえないおかしさで、クスクス笑いの連続だった。普通だったら白けてしまうそのような話で、ひきつけて笑わせるという手腕はみごとだ。
 人物について、その個性と思いがくっきりとしてくると、新しいメンバーの歓迎会の趣向(なんと本場衣裳のサンバ!)も不自然とは思えなくなってくる。それでも、5人のカーニバル衣裳姿はインパクトがある。ここはゲラゲラ笑いが止まらない。
 そんな展開の2時間近い舞台なのに、1回の暗転もないノンストップという脚本は、練り上げられていてその質は高い。

 この舞台、福岡ではきのうときょうで2ステージ。後方にわずかに空席があった。
 この舞台は西鉄ムーブの55本目。このところの西鉄ムーブには外れがない。その選択眼はすごい。


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