こんなにわかりやすい鴻上作品は初めてだ。
ほとんど笑いっぱなしだった。ほんとにタップリ楽しんだ。
ネット心中をしようと集まった3人、谷川(辺見えみり)、原田(北村有起哉)、橋本(大高洋夫)。
そのふたりまでが、ふたつの人格を持つ。カウンセラーの谷川は自分のなかに、死なせてしまった学生の平山(高橋一生)の人格を抱え、原田は、時に別人格と入れ替わる。
谷川は実は、ネット心中を止めるために他のふたりと会うのだが、そのふたりと自分のなかの平山に翻弄されながら、最終的には自分こそが自殺志願者であったことを知ることになる。
たった4人の登場人物なのに、多重人格などの仕掛けで、複雑で圧倒的な奥行きを獲得している。
原田は、時に別人格を生きる。その別人格は、9.11にWTCビルにいたという妄想を持ち、日本がいま戦争状態で無差別攻撃にさらされており、そのために「人間の盾」となって抵抗している。
この別人格の世界では、いまのこの場所に戦争を持ってくることで、死にたくなくても殺されるという世界を重ね合わせる。自分の命を盾に他人の命を守ろうとする「人間の盾」は、死ぬことが希望というネット心中の裏返しの世界だが、ここではさらに一歩進んで、平山の別人格は「人間の盾」の爆撃死を自作自演してまで非戦をアピールしようとする。
平山の別人格の作り上げた「人間の盾」の世界につきあって、幼稚園慰問のために劇「泣いた赤鬼」を上演しようとするのだが、その話を大きなストーリーにみごとにからめる。
青鬼の親切心に赤鬼は泣くのだが、自ら身を引いた青鬼の気持ちにそれぞれが自分の立場で迫る。ほとんどのことがはっきりとわかるなかで、この青鬼の気持ちだけは、あえてひとつの考えに収束しようとはしない。
重苦しいテーマにもかかわらず、全体の印象は明るくて軽快だ。ウィットに富んだセリフのオンパレードで、ほとんど笑いっぱなしだった。
状況は大きくテンポよく変わっていくが、その原因ははっきりとわかる。こんなに鴻上作品がわかっていいのだろうかと思えるほどだ。演出がうまく整理してくれていることが大きい。
俳優は、劇中劇で多彩になったこの舞台を生き生きと演じていた。特に、全体を受けとめる要としての、大高洋夫の深い演技はみごとだ。
この舞台は、23日から25日まで5ステージ。満席だった。