安倍祐馬の新作は、満州鉄道に題材をとって戦争と愛を描いたふたり芝居。
戯曲のテクニックについては工夫の余地はあるが、劇的とは何かを素直に見つめる姿勢が、素朴でしっとりとしたいい舞台を作った。
終戦前後の満州中部(らしい)にある満州鉄道の駅が舞台。
男(軍所属の駅員)のところに来る女。女は、夫が戦死し、彼女自身ソ連兵に蹂躙される。そして終戦。男は、再会を約して女を日本へ返し、自らはソ連に徴用される。男が日本に帰って、ふたりが再会するのは40年後。
ファーストシーンは、その40年後に女のもとに向かう男から。待っている女。そして回想シーンへ。
地面の底が抜けたような終戦前後の満州で、不幸に襲われた女はいつも死を考えている。そのための鉄道。男はそれを押しとどめて、ふたりは互いに惹かれて頼りあう。
ややたどたどしいが、その心情はまあわかる。ただ会話はかなり単調で、若干もどかしい。ここはふたりの気持ちの動きをもっとうまく強調するような、エピソードや小道具などの仕掛けがあってもいい。
演出も演技も、やはり単調に見える。話しているあいだに変化していく相手への気持ち、その繊細な心の動きが十分に現れないのがもどかしい。特に、茫洋としながらもいつも醒めたように見えてしまう男の演技には、工夫の余地がある。プロポーズがいかにも唐突に見えた。
40年後の再会まで、じっくりと見せるのはいい。
この舞台は、劇団池田商会の瀧本雄壱・都地みゆきによる劇団内二人ユニット・アンサンブルの第一回公演で、きのうときょうで6ステージ。このユニットは、7月、8月に連続公演が予定されている。
ラストステージを観た。15人くらいの観客だった。