楽しくて、涙も出てと、よき時代のミュージカルの名作は、押さえるべきところをきちんと押さえている。子どもを使って、少しばかりずるいかなという気はするが。
1938年、オーストリアのザルツブルグを舞台に、謹厳で硬骨なトラップ大佐(今井清隆)の7人の子どもたちと、修道院から来た家庭教師・マリア(大地真央)の話。
ナチスドイツの暗雲がオーストリアを覆い、それを潔しとしない大佐は、結婚したマリアと子どもたちといっしょに、山を越えてスイスに逃れる。
大佐に、子どもの気持ちとそれに応える愛情表現を説くマリア。家に歌がよみがえる。その心地よさをもたらしてくれたマリアへの愛を、厳しい現実が襲ってくる不安のなかではっきりとわかる大佐。それを、くどくなく、さらりとしすぎずに描く。
一家がナチからいかに逃れるかというのは、サスペンス。音楽祭出場でカムフラージュし、修道院に隠れて、一行は山越えの旅に出る。ここはもう、情緒に訴える手練手管の真っ向勝負だが、表現は過度にはならない。音楽祭で、オーストリア賛歌「エーデルワイス」を朗々と歌う大佐。修道院で、いったん一家を見つけながら見逃す、長女・リーズルの恋人だったロルフなどなど、重い思いをかいまみせるが、押しつけがましくはない。そのあたりの加減は絶妙だ。
全体的に歌は心情を託すものという作りで、よき時代のミュージカルだ。
俳優は、ややこじんまりだが、うまくおさまっている。
大地真央は、みずみずしさがあればなおいい。今井清隆は、歌はさすがだが、少し硬いか。子どもたちが変に大人っぽくないのはいい。大佐の恋人・エルザ(杜けあき)の大人の女のクールさがなかなか。
オーケストラ付き。これが録音だったら、舞台の印象はずいぶん間の抜けたものになっただろう。
この舞台は博多座5月公演で、全部で40ステージ。若干空席があった。