アイディアがうまく戯曲に乗っかったときの、後藤香の作品はおもしろい。
この作品はそのあたりがうまくいって、「秘密の花園」以来のおもしろさだった。
知映見とともに雑貨屋を立ち上げようとしている輝映。そこのアルバイトに応募してきたのは、3年前に事故で死んだ婚約者・裕二にそっくりな顔をした女性・鏡子だった。
どうしても忘れられない思いは幻想を見る。そっくりな顔の女性が近くに現れたことで、単なる幻想といえなくなった中途半端な生身感。輝映のそのような屈折した思いを、屈折して映し出す象徴としてのカガミ。
そのような輝映に、亡くした息子の成長を幻想することで生きがいと安らぎを得ている知映見の思いを対比させながら、そのこころの動きを繊細に表現している。
何となく危うい微妙な気分。その緊張感に加え、それぞれの人物の思いのからみあいもうまくはまって、それぞれのシーンがクッキリとしていているのはいい。
ただ、例えば親睦会の場面に見られるように、時に焦点の合わないセリフが舞台のテンポを阻害していたところがあったのは惜しい。もっと切れよくたたみかけてもいい。
人物がうまく書かれていることもあるが、俳優はそれぞれの役の個性をうまく表現していた。特に、知映見役の秦かよこの抑えた演技が光る。
このところ不振の中堅劇団の作・演出のなかでは、後藤香ひとりが気を吐いているという印象さえもった。
この舞台は劇団K2T3の第18回公演で、きょうから30日まで6ステージ。満席だった。