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《2005.2月−5》

見せつけられる、芸人の力
【すわ親治ひとりコメディ (他言無用プロジェクト)】

作・演出:すわ親治
10日(木) 19:05〜20:35 ぽんぷらざホール 3500円


 すわ親治のこのステージは、ひとり芝居とは呼べないような短いコメディを集めたもの。そのコメディは長さもまちまちで、時に突っ込むことはあるが、多くは思いもかけないほうにはぐらかす。切れ味よくはぐらかされて、気持ちいい。
 突っ込んだときには、ガラリと変わるキャラがビシッとはまって、ゾッとするような凄みがある。そんなひとりコメディが観られたから、もう幸せだった。

 はじめに、芸人・ヒロシの物まね「シンジです」で、生い立ちから現在までを、偽悪的・自虐的に語る。ヤクザ口調も混じる迫力のあるしゃべりなのに、サッとかわしたり開き直ったりと一癖もふた癖もあって、生み出す笑いも単純ではない。ヒロシよりおもしろいかもしれない。

 舞台下手に台とコートハンガーがあり、衣裳がかかっている。観客に見られながら着替えるのはイッセー尾形と同じだが、メイクはなくて比較的簡単だ。コメディも、10数秒の短いものから長くても10分に満たず、人物描写のやり方はイッセー尾形とはかなり違う。
 内容は支離滅裂・不条理だが、その表現は説得力いっぱい存在感たっぷりで大迫力というアンバランス。しかも、どのコントも強い哀愁が後を引く。

「大人の童話」
 子どもを寝かしつけながらの昔話「桃太郎」を子どもに拒否された主婦が、リアルな今話「モモタロウ」をすると・・・、隣室にいる不倫相手と早く会いたくて子どもを寝かしつけていたことがわかってしまう、というところまで行ってしまう。

「無口な男」
 サムエ姿の一徹そうな男に、妻のナレーション。入籍して30年後の結婚式で、男は初めて「★#@&」と口を利いた、○○○だった。外し方がバカバカしい。

「よっぱらい」
 多重人格的敵にまで昂進してしまう妄想癖をもつよっぱらいの、相手のいない支離滅裂な会話。そしてただ去っていくなんていうのも人を喰っている。

「切腹」
 死装束の男、刀が腹をかするや・・・。わずか10数秒のコントだが、笑わせる。

「疑問文の男」
 日本語学校に正しい日本語を習いに来た中国人は、すべて疑問形でしか話さない、そのやりとりのしつこさは、吉本新喜劇の安尾信乃助の比ではない。

 ここで、三歳児のTシャツを着るパフォーマンス。以降は、そのTシャツを下に着たまま演じる。

「黒幕の男」
 金もうけのための資金集めをしているコワモテの男。三億円事件も森永・グリコ事件も9.11も黒幕は自分だとアピールする。それが突然、どうしようもなく自己を卑下して言い訳する、弱くわけわからない顔になる。その一瞬のキャラの切替えのあまりの強烈さに唖然とする。コワモテに戻り話はさらにエスカレートし、また突然弱気の顔に。
 これほどインパクトのあるパフォーマンス、なかなかない。

 そのあとギターを取り出して弾き語り、「黒い花びら」など。さらに替え歌、「燃えろいい女」の曲でドン・キホーテを歌ったり。間にされる語りは、ドリフターズ見習いのころの苦労話や、いかりや長介さんの死の話。歌手・リリーから贈られた曲。最後はロックンロールメドレー。歌もうまいし、やたら説得力がある。
 アンコールはネコ車とのダンス。軽快な動きがみごとで楽しい。

 この舞台は福岡では1ステージ。少し空席があった。
(コメディの題名は薙野が仮につけているもので、正式のものではありません)


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