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《2005.2月−10》

重量感たっぷり、質の高い娯楽劇
【いのちぼうにふろう物語 (無名塾)】

原作:山本周五郎 劇作:隆巴 演出:林清人
15日(火) 18:35〜21:25 ももちパレス 3100円


 隆巴(宮崎恭子)の力量がみごとに発揮された無名塾の代表作ともいえる舞台で、個性的な群像をダイナミックに動かしながら、ガッチリとした重量感あふれる造りで見応え十分だ。やや古臭いところもあるが、全体としては質の高い娯楽劇になっている。
 ただ、仲代達矢のスター芝居だとはいえ、主役がヒーローっぽくてカッコつけすぎなのが気にはなった。

 抜け荷の拠点でもあるめし屋・深川安楽亭は、人間の吹きだまりのようなところ。
 そこに転がり込む2人の男。吉原に売られた思う人を助け出そうとする若い男と、うらぶれた老境の男。
 若い男にほだされて、男たちは危険な抜け荷を請け負うが、そこには安楽亭をぶっ潰そうとする役人のワナが・・・。

 荒くれ男たちが仏心を出したばかりに破滅していくという男のやせ我慢の美学には、弱さを抱えながらも期待に応えたい人間臭い熱情があらわれている。その結果破滅にまで突き進んでいくというこの舞台は、ストーリーとしては「どん底」よりも激しいといえるかもしれない。
 しかし、やや美学が先走りすぎて甘くなってしまったところもある。それが娯楽劇としての限界かという気はするが、ヒーローに花を持たせて簡単にハッピーエンドにしてしまうようなもっと安易な娯楽劇とは確かに一線を画している。

 脚本も演出もムダなく練り上げられ、その舞台のどっしりとした重量感は腹に響く。  一言のセリフ、一つ一つの動きにきっちりと意味をもたせ、それをダイナミックにねじり上げて作られた群像劇は、様式的とも見えるレベルに達している。勘所を押さえた演出でグイグイと舞台の世界に引きこんでいく。
 大きな梁をもつ重厚な二階家が廻ってのスムーズな場面転換で、緊張を遮断しない。
 個性的な群像を、演技に若干の脆弱さと意識的な方向づけの跡が見えるが、若い俳優たちがそれらしく演じているのはいい。このところの無名熟の舞台で不満が多かった若手の演技がよくなったのは、若手が伸びたか脚本・演出のよさでいいところが引っぱり出されたかだろうが、いずれにしても喜ばしい。

 荒くれ男たちが若い男にほだされて我を忘れ、ほとんど暴走気味に破滅に突っ走るという稚気、青さ、浅はかさには、「バカだなぁ」と見えて感情移入できないが、そのあたりの距離感を演出は意図的に出している。男たちの心に初めて芽生えた利害を超えた思いやりをあえて突き放して描いているが、にもかかわらずの男たちの壮絶な死を他人事とすることもできないという、浮遊しているようで単純ではないやるせなさも感じた。
 そのなかで仲代ひとりがあくまでもヒーロースタイルでカッコいいが、そのことが違和感を感じさせる。アンサンブルを壊しているように見える。例えば、若い男に、老境の男を殺して金を奪うように出刃包丁を渡すが、これがとんだお門違い。そんな男をものすごくカッコつけて演じるのは、役の読み方としては間違っているだろう。仲代は人の弱さやユーモアの表現が下手で、そのことも違和感の理由だ。

 この舞台は福岡市民劇場2月例会作品で、8日から16日まで11ステージ。満席だった。


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