役者の熱意とフレッシュさで、新作のすがすがしさを感じさせる。曲亭馬琴の原作をもとに、これだけ多様な構成の新作歌舞伎を脚本から作り上げたことは驚異だ。
若干の不満は、むしろあって当然だという気がする。
陥れられて都を追放され、駿河の国で落ちぶれた生活をおくっている元楽人・富士太郎とその父。
駿河を訪れた将軍・義満の前での楽人・浅間との楽論に勝った太郎は、都に戻り楽人に復帰することになるが、恨みを持った浅間が太郎の父を殺してしまう。
あとは、延々と太郎の浅間への仇討ち譚が続く。
原作は曲亭馬琴の「三国一夜物語」。
華やかな雅楽の舞から始まり、地の部分を世話物で引っぱり、大詰め近くの龍宮のシーンはファンタジックを早替わりなどのけれんでさらに強調し、ラストは将軍・義満の裁断でハッピーエンド。
華やかなシーンは若手歌舞伎らしいすがすがしさで好感が持てる。しかし中盤は、太郎の妹・小雪を利用しようとする浅間の策略などを、世話物っぽい作りで、地味でダラダラとときにクドクドとやられ、かなり退屈する。
いろいろ詰め込まれているのを通しで観られるのはいいが、全体としての緊密なまとまりや心地よきいテンポには欠けていた。
そういう不満もあるが、この作品が再演ではあるが新作歌舞伎であることを考えれば、ここまでいろんな要素を詰め込んでいることに驚嘆する。
歌舞伎とはかなり異質の雅楽の世界をよく描いて、舞はむろん、器楽演奏も俳優自らがこなす。しつこいまでの早替わり、2人が亀に乗っての宙乗りなども、舞台の楽しさを広げていた。
それを若手だけで、見せるレベルにしている。歌舞伎の伝統の力を思うとともに、作の今井豊茂、補綴・演出の奈河彰輔とはどんな人なんだろうと気になった。
この舞台は博多座二月花形歌舞伎公演で、1日から25日まで40ステージ。わずかに空席があった。