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《2005.3月−3》

見せつけられる、大きな構成
【屋根裏 (燐光群)】

作・演出:坂手洋二
5日(土) 14:05〜16:15 北九州芸術劇場・小劇場 プレゼントチケット


 奥の深い題材をみごとに表現する、大きすぎるほどの構成と圧倒的な切れ味―予想を裏切り続ける展開にもうワクワクした。
 ズシリと重い内容とそのための強烈な仕掛けがあるのに、その表現は簡潔で軽やかにさえ見え、含蓄と余韻たっぷりだ。

 21世紀初頭にブームになったひきこもりのためのツール「屋根裏」は、実際の屋根裏を模して持ち運び可能にしたもの。その「屋根裏」をめぐる約20のショートストーリーで構成される。
 弟が「屋根裏」の中で自殺したその自殺の原因を兄が探す、という大きなストーリーはあるが、それぞれのショートストーリーでは、刑事の張り込み場所、情事の場所、そして棺おけに使われたりと、ひきこもりが常態となった時代のいかにもありそうな「屋根裏」話が自由に大きく展開する。
 そのような「屋根裏」の諸相のなかでも、「屋根裏」売買のための「屋根裏マーケット」でその大きなブームを表し、棺おけ代わりに使われた「屋根裏」が20年後に発掘されたシーンを通して、時間軸を引き伸ばしてそのブームを客観視する。そのような空間的時間的な広がりが効果的だ。

 そのような展開をラストに向かって推進する力となっているのが、「屋根裏」の内部に書かれた落書きのようなロゴマーク「ヤネウラハンター」。呪術的な超自然的能力を持つものとしてのその「ヤネウラハンター」が、「屋根裏」に命を与えて単なる道具以上のものにしている。
 その「ヤネウラハンター」をハントすることで、「屋根裏」の持っていた力の根源に迫ろうとする。「ヤネウラハンター」は救いや癒しの象徴にとどまらず、ロゴから抜け出して月光仮面やスーパーマンのように実際に救いや癒しを行う者であった。そのような具体的で積極的な救いが「屋根裏」に込められていたことが明かされる。
 その「ヤネウラハンター」は発明者の知恵遅れの弟の分身だった。ここでは知恵遅れは、稚児に通じるような「聖なる者」を象徴している。大きく広がった物語はそこまで到達するが、決して現実離れをしたとは思わせない。

 「屋根裏」の諸相をそれぞれのショートストーリーで鮮やかに切り取って、大きな構成にテンポよく繋いでいく。ムダのない芯の通ったセリフで激しく切り込みながら、その表現がくどくないというのは、演出の意図を過不足なく受け止められる俳優の力あってのことだろう。

 この舞台は北九州では2ステージ。少し空席があった。


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