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《2005.3月−11》

ドラマが希薄で、平板
【雲虎 タイフーンライダーズ! (UNIT AA)】

作・演出:切口健
26日(土) 19:40〜21:10 ぽんプラザホール 1500円


 福岡においては、おもしろい芝居はそれぞれにおもしろいのに、おもしろくない芝居はみな似かよっている―と、この舞台を観ていて毒づきたくなってしまった。おもしろくない芝居がみな似かよっていて、壮絶な失敗作がないことが福岡の演劇の問題だ。
 作品を試験の答案に例えると、この舞台はよけいなことをいっぱい書いて減点された答案のようなものだ。よけいなつまらないものが、せっかくのいいところを相殺してしまっている。減点してくださいとばかり、何でつまらないことばかりやるのだろう。よけいなつまらないものの識別ができていないのが問題だ。それは、「中学生の落書き」(この舞台のキャッチフレーズ)だからといって許されるはずはない。
 創る人の情熱はわかるが、情熱だけではおもしろい芝居はできないことを、福岡の多くの舞台と同じようにこの舞台もまた如実に物語っている。

 太陽に奉仕させられている台風族から抜け出そうとする台風1号は、台風族の長・台風2号と戦い敗れるが、自衛隊員に助けられ師父台風に鍛えられて復讐を誓う。
 その台風どうしの戦いにまきこまれたレポーター福井は台風族となってしまうが、彼にはニュースキャスターの身重の妻がいた。

 脚本は、ストーリーはあるがドラマが希薄で、平板でつまらない。
 紆余曲折のあと、台風族がまとまってレポーター福井や自衛隊員といっしょになって太陽をやっつけるというところまで行ってしまうのだが、いくつもある転換点がいかにも唐突で軽く、ご都合主義が過ぎる。例えば、台風1号に説得されて台風2号が太陽に敵対する決意をするシーンで、この台風2号のいかにも軽い変心のその上に、台風2号の部下たちは物蔭でふたりの会話を聞いていて、何の葛藤もなく自ら台風2号の変心に同調するというあんまりの調子のよさ。それはドラマじゃねぇだろう。こんなセリフ、書いていてあるいはしゃべっていて、おかしいから改善しようと思わないのだろうか。
 わかりきったことをクドクドと説明するセリフと、ゲスに強調するセリフが多いこともこの舞台の質を落としている。例えば、台風28号のブーメランの説明の何というくどさ。「戻ってくるブーメラン」とだけ言えばいいのに、オーストラリアまで出てきてしつこく説明される冗長なセリフで間延びしてしまい、観客は舞台が追いつくのを足踏みして待たされて、眠気に襲われる。テンポなんぞあったもんじゃない。
 ちゃんとしていて見せたのはラストシーンだけで、そこを見せるために全体を書いたにしても、緊張感も広がりもない舞台ではどうしようもないだろう。

 演出と演技も、演劇とはこんなものという思い込みに支配されている。
 随所に出てくる擬闘は、やっているほうが楽しいだけで観客を喜ばせるレベルには遠い。俳優の動作も、こういうセリフのときはこう動くといった固定観念に取りつかれていて、だからものすごく大ざっぱだ。しゃべりも語尾が上がりっぱなしで、自然さなどはじめから放擲している。
 そんな中で、台風28号の三坂恵美、福井の手島有、太陽の牛島康介には存在感があった。

 切口健の初作・初演出作品に対してきびしすぎる感想かもしれない。それは、ここではこの作品が影響を受けすぎている福岡のつまらない芝居が共通的にもっている欠陥について述べたためにきびしくなってしまった。そのような欠陥についていままでも散々書いてきたが、福岡の演劇人には届いていないようだ。しかたないか。
 この舞台は切口健主宰のUNIT AA(エーツー)の第1回公演できょうとあすで4ステージ。ほぼ満席だった。


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