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《2005.3月−14》

すごいものに、立ち合わせてもらった
【砂の絵の具 番外編〜ワークショップ〜 (西鉄ホール)】

指導:岩崎正裕(劇団太陽族)
31日(木) 20:40〜21:50 西鉄ホール 観覧無料


 約3時間のワークショップの終わりのほう1時間しか見られなかったが、見ている間は笑い転げっぱなしで、ものすごくおもしろかった。
 なんでこんなにおもしろいんだろう。

 西鉄ホールに入ると、あすとあさっての劇団太陽族公演「砂の絵の具」の装置がセットされた舞台上に10人くらいの人がいて、男性が女性を口説くシーンが演じられている。そのリアルさに「これは何だ?」とまず驚いてしまった。その舞台に上がったグループによる1幕の芝居として、幾組かのペアが男性が女性を口説くシーンを演じる。
 同じパターンでのあとの2グループの舞台を観ていて、女性に告白したがうまくいかなかった男性に対して先輩たちが手本を見せて手管を教えてやっているのだということがだんだんわかってきた。はじめの男性と女性は太陽族の劇団員が演じ、ワークショップ参加者はみんな先輩を演じる。あとの2グループもまた質の高い舞台だった。
 きちんとした舞台装置の上にそれぞれの俳優たちがちゃんと存在感ある形で位置を占めていて、しかもバランスがとれている。口説きの手本では、直情的に迫っていく者、からめ手から攻める者など多彩で個性的で、手管も、泣き落とし、半強制、同情を買うなど具体的で、相手役との互いのリアクションで話をうまく膨らませていく。まわりも演じているペアに適当にちょっかいを出す。それが非常に自然になされるという舞台はみごとだった。福岡の水準をはるかに超えているというのは、日頃見なれた俳優さんたちがかって見たこともないほどに生き生きとした演技をしていて、人物が生きていることからもわかる。
 午後7時から始まったワークショップで1時間半しか経っていないのに、どうしてこんなすごい舞台を作ったのだろうという疑問が、強く湧いた。そして、それが「即興」だと聞いて、もうびっくりしてしまった。「即興」でここまでおもしろいのなら、じっくりと作り上げておもしろくない舞台の立場はない。どうして「即興」なのに(あるいは「即興」だから)ここまでおもしろいのかという疑問が、さらに湧いた。

 そのあと、21人の参加者全員に太陽族の劇団員1人を加えて、「中学校の美術部室にたてこもる10数人の部員を説得する6人の教員」というシチュエーションで、役もその場で決めて演じられた。たてこもりの理由と、部室に入るときの合言葉と、教員と部長役と、ラストの閉めかたは決められたが、あとは俳優に任される。
 先生役は、自分の担当する学科の論理を駆使して説得にかかるが、生徒たちも反撃して説得はそうはうまくいかない。しかも6人目の教員(この役は太陽族の俳優が演じる)は、生徒側に寝返ってしまう始末。そういう全体が決して不自然ではないどころか、これが劇作家も思いつかないいちばんのありようのようにさえ思えてくるから不思議だ。
 テンポよく繰り出されるセリフや動きは役の個性まで表現していて、さらに部員と俳優のせっぱつまった状況がシンクロしてか緊張感もあり、心地よい笑いを引き起こす。う〜ん、これはうなるしかない。

 講師の岩崎正裕はこのワークショップでの試みについて、「シチュエーションと舞台装置があれば、台本がなくても芝居が作られることを試したかった」と言った。
 この舞台のまとまりから、舞台には、神の手というのは大げさだろうが、見えない糸に全員が導かれているような自律性を強く感じた。そのようなまとまりのなかでも、それぞれのセリフや動きはとても印象的だったが、それは、個性的な俳優が、典型的なシチュエーションで、ギリギリまで追いつめられた状況から生み出されたものであるからだろう。そのような俳優の余裕のなさが却って演技のリアルさを生んでいたのではないか。俳優たちが生き生きと見えたのはそのためだろう。
 そのように、すごいものに立ち合わせてもらって、もう幸せだった。


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