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《2005.4月−9》

井上ひさし調G2もまた、いい
【Candy’s (G2プロデュース)】

作・演出:G2
20日(水) 19:05〜21:30 西鉄ホール 招待券


 仕事と恋―命を賭けるほどに大事なものがふたつ、ひとりの中で同じ時にガチンコでぶつかる。恋の喜びが勝つが、そのことの代償は大きい。
 G2の純愛物語は、けっこう苦い。

 東京の向島石鹸工場。昭和10年の、宮内省に納品する石鹸作り。昭和30年の、工場閉鎖反対のための組合運動。敗戦の10年前と10年後のふたつの時間のあいだを行き来しながら舞台は展開する。
 昭和30年、工場閉鎖反対のための組合運動のリーダーになってしまう社長の娘・美雪は、影のある職人・渡部に魅かれる。その渡部は20年前に、宮内省に納品する石鹸作りの失敗の原因を作っていた。

 G2らしいレトリックが弱く、人物も善良な人ばかりと、井上ひさしの昭和庶民伝と見まごうような舞台だ。テーマによって変幻自在のG2の幅広さを見る。
 純愛が核になってはいるが、それがなかなか具体的に表に現われない。職人・渡部の思いは内にこもって、どっちかというと優柔不断にさえ見えてしまう。だがそれは、ピークに向かっての伏線ともとれる。
 そのピークが顕われる。それは短いが激しい。昭和10年の渡部の、宮内省に納品する石鹸作りの最終工程の一部を任された仕事 VS あこがれる美千子からの恋の告白を、同じ時間同じ場所という一点に集中させて、どうしようもない選択を迫る。重大な責任のある仕事を、顕われた恋は忘れさせる。

 そのような純愛以外に、職人・柴田(久保酎吉)の「キャンディーみたいな石鹸」の夢と現実的な社長の思いをもうひとつの核とし、そのようなドラマを、基本的には楽しい舞台のなかでじっくりと描く。個性的な多彩な登場人物たち。その人たちを見つめる作者の目は、暖かさに満ちている。
 設定したふたつの時間を一瞬にして鮮やかに飛びながら、ふたつの時間を繋ぐものをじっくりと描いていく。柴田の作った石鹸は20年の時を越えて生き延び、渡部の胸からいちどは消えた恋も20年の時を経てよみがえる。気持ちのいい甘酸っぱさでハッピーエンド。

 こまつ座の「紙屋町さくらホテル」での印象深い演技が忘れられない久保酎吉は、今回は硬骨の職人・柴田の役をみごとに演じて、舞台をビシリと締めていた。
 惜しむらくは、白馬の王子が現れて渡りに舟と救われるというやや甘いラスト。気持ちよく終わらせたい気持ちはわからないでもないけれど。

 この舞台は18日から20日まで3ステージ。少し空席があった。


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