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《2005.5月−5》

「相貌失認」という趣向で、ざわめかせる
【Shuffle (PARCO PRODUCE)】

作・演出:後藤ひろひと
16日(月) 19:05〜21:20 福岡市民会館 7500円


 「むつけき男をうら若き美女が演じたらおもしろいだろうな」というアイディアを、この舞台は「相貌失認になった」という趣向で実現してみせて、楽しませてくれる。
 その趣向で、はじめのほうから最後まで、ほとんど舞台全編をざわめかせつづける。その趣向で、舞台がコチコチに凝り固まるのを揉みほぐして楽しませ、時にはどこにいるかわからないような不安定な気分にもして、ワクワクと観客の興味をかきたてる。

 シャッフルと呼ばれる敏腕で自称モテモテ刑事が、一発の銃弾を喰らって「相貌失認」になってしまう。「相貌失認」とは、記憶のなかにある人の顔がバラバラに入れ替わってしまうという病気。同僚が女性上司に、上司が犯人の女性怪盗に、犯人が憧れの女性に、というふうに見えてしまうからさぁ大変。

 けっこう長い芝居だが、笑いっぱなしで長さを感じさせない。
 撃たれて「相貌失認」になってしまうまでが30分。それだけでもややこしいのに、見えるひとがあるきっかけでさらに入れ替わる。それがわかるまでさらに30分。
 現実のシーンと、主人公に見えているシーンが混在する。主人公に見えているシーンでは、例えば、犯人のひとり(山内圭哉)が女性上司(平田敦子)に見えるから、主人公が犯人のひとりを見ているシーンでは平田敦子は山内圭哉の演技のマネをすることになる。カッコいい美女の風花舞に股を広げたあられもない格好をさせたりというのが、これがバカバカしくおもしろい。それがさらに入れ替わるから、観客は誰が誰に見えるのか想像して、いやでも舞台にひきつけられることになる。

 カーテンコールでのあいさつで後藤ひろひとが、"内容のない芝居なのに豪華配役" と言っていたが、テーマとか教訓とかなくても、趣向で観客の気持ちをうまく引っぱってここまで楽しませてくれれば文句はない。
 その観客の気持ちの引っぱり方は、例えば「相貌失認」を説明するのに、絵を使ってわかりやすいだけでなく楽しめるものにしている。アクションシーンのあとにしっとりとしたシーンを入れたりと、観客が新鮮な気持ちでいられる工夫もいっぱいだ。
 ただ感想を書くとなると、どういう風に楽しいのかをうまく書けないのがもどかしい。

 この舞台はきょう1ステージ。会場が広いこともあるが、後ろのほうに若干空席があった。


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