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《2005.6月−14》

脚本が、ダメだ
【ガラパゴスダイナモス (万能グローブ ガラパゴスダイナモス)】

作・演出:松野尾亮
25日(土) 19:30〜21:20 ぽんプラザホール 1000円


 脚本がダメだ。
 どうしてこんなおもしろくもない脚本を旗揚げ公演に選ぶのだろう。この脚本がおもしろくない脚本だということがわからないということが問題だ。

 近未来。大災害のために壊滅状況になった都市から地方への移動が禁止された。
 原発がある山奥の村。原発は停止しており、他の地域との行き来も禁止され、村は政府の配給だけで生きている。そこに足止めされた自衛隊員2人と自転車旅行の男とボランティアの女は、原発敷地内で暮している。
 この村を切り捨てようとする政府にアピールするために、巨大野菜を栽培しようとするのだが・・・。

 きちんとした舞台は始まってから2、3分だけ。近未来というところに逃げ込んだつもりかもしれないが、それでも何か動けば欠点が顕われるという舞台だ。それもよけいなことばかりをして、矛盾や非常識にも無頓着で、人物も幼稚で甘ったれている。そのように、わざわざ欠点を一生懸命作りこんでいるようにさえ見える。
 はじめの、由美が吐くシーン。何で本筋に関係のない妊娠をにおわせて長々引っぱるのだろう。結局だだの食中毒なのだが、その由美の嘔吐は却って、あとから出てくる肝心の、巨大野菜を食べての嘔吐の効果を弱めている。
 自転車旅行の男は、あと1メートルでゴールするのに前輪が故障。その部品探しにみんなが奔走する。男の変なこだわりは幼児性そのもので、たかが前輪が壊れたくらいの部品探しに何人もが何日もかかるようじゃ、日本一周してきたというのがウソだろう。こんなご都合主義が以後も頻発する。山奥に原発を作るといった常識無視が、近未来のことだからといって許されていいはずはあるまい。
 ウソをつくな、正直にリアルにやれ、ということばかりをいっているのではない。納得できるように、もう少しうまく騙せということだ。

 いろんなところで、力の入れ方を間違っている。
 大事な状況説明をセリフにうまく盛り込まず、見にくいスライドでさっさと流す。かと思えば、よけいなセリフばかりでわかりきったことのしゃべりすぎにイライラする。ちょっと見にはテンポよさそうに見えるが、くどくて、観客の内部のテンポを無視している。
 ボランティアの女の本性がテーマにかかわってくるかと思いきや、政府の回し者だったことはわかっても、こんなどうしようもない連中のなかにいることの意味がわからない。何か大きな陰謀と係わっていて、状況が大きく転換していくことを期待してしまったが、みごとに裏切られた。おまけに、政府の回し者だということを小出しにしてどうする。
 なんでみんな力の入りすぎた大仰な演技なのだろう。客演の小沢健次は徹頭徹尾エキセントリックだが、普通の演技との対比でこそエキセントリックのインパクトが強まるという当たり前のことさえわかっていないようだ。
 そんなふうで、そこにいる人物の存在感は薄くいとおしくもないから、政府による原発の破壊と村の壊滅の衝撃は弱い。それにしても、政府による原発の破壊については、それはないだろう。その無節操ぶりにあきれる。ほんとうにその必要があったのなら、その政府内部の動きこそドラマ化すればいい。
 その60年後の話は、もっとちゃんと膨らまさない限り中途半端で、よけいとしか映らない。歴史はほんとに繰り返すんだっけ?

 旗揚げ公演から福岡の安易な芝居作りの影響を受けているのが気になった。本格的な芝居を観て、日本と世界の主要な戯曲を読みこなして、目標を大きく持ってもらったがいい。
 この舞台は万能グローブ ガラパゴスダイナモスの第1回公演で、きょうとあす3ステージ。わずかに空席があった。


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