今月の博多座は、「十一代目市川海老蔵襲名披露」。その千秋楽の夜の部を観た。「助六由縁江戸桜」が楽しめた。
「義経千本桜 鳥居前」
「義経千本桜」で、初音の鼓の皮にされた親狐を慕って、義経の家来に化けて静御前を守る子狐。「鳥居前」はその初登場の場。
松緑の源九郎狐の大きく決める動きがいい。対する義経(亀治郎)はノーブルで、敵役の早見藤太(亀蔵)のユーモラスと、短い場の中に見せ場がいっぱいで楽しい。
やや解説調の浄瑠璃は、三味線とともに情感を盛り上げるためにあり、セリフそのものは非常に簡潔だが、それでも十分に理解できる。上演時間45分。
「十一代目市川海老蔵襲名披露 口上」
並んだ役者のなかでも、海老蔵はもちろん、海老蔵と同世代の菊之助、松緑、亀治郎が、見ばえも押し出しも圧倒的にいい。
海老蔵の「にらみ」は、目はもちろんだが、顔全体あるいは体ごとでにらむ。その顔は、写楽の役者絵もあながち誇張ではないと思わせるほどだ。口上からにらみまで、20分。
「保名」
団十郎による舞踊。恋人・榊の前の死が受け容れられず、その面影を求めてさまよう保名。
叙情たっぷりだし、保名の気持ちと裏腹な桜と菜の花の華やかさのもとでの踊りはいいが、清元のよさがわからない身にはやや単調。上演時間25分。
「助六由縁江戸桜」
江戸一番の伊達男・助六(海老蔵)は、恋人である吉原一の花魁・揚巻(菊之助)に近づく意休(左團次)らに悪態三昧、ケンカ三昧。
前半はやりたい放題の助六。後半は、実は・・・と本性と目的が顕われて、それまでのやりたい放題ががチャラになる。それでも結局は、やりたい放題のおもしろさで見せるという舞台だ。どっちが本性だか、確かにはわからない。
はじめの口上で団十郎から、「トロいところがあるが寛容に」といったエクスキューズがあった。華やかな花魁の顔見世ショーと、いかにも決まった助六の姿かたちのよさにホレボレするが、確かにテンポいいとはいえないところも多い。それでも、野放図とも言える明るさがあり、ユーモアもいっぱいで、深刻さがないのがいい。
菊之助の揚巻が気品があって圧倒的な美しさだ。3階からだと助六の登場と花道での表情が見えにくいのがつらかった。上演時間2時間弱。
この夜の部は、2日から26日まで25公演。満席だった。