出し惜しみするなよ、という公演。
上演時間はわずか50分。トークが40分で、トークの内容も寄付集めのためのチャリティの宣伝ばかり。客をなめた公演だ。
最初の演目は、舞囃子「道成寺組曲」。上演時間20分。
「道成寺組曲」は、「道成寺」を囃子だけで構成した作品で、能楽笛方藤田流11世家元・藤田六郎兵衛と、能楽小鼓方大蔵流16世宗家大倉源次郎が構成した、もともとは能の作品。
今回の公演では、大鼓が能の亀井広忠、小鼓が歌舞伎の田中伝左衛門、太鼓が歌舞伎の田中伝次郎。それに、市川亀治郎振付の素踊りをプラスした舞台。
音でいけば、小鼓が軽くて能とは違って柔らかい印象になっていたが、それが少し物足りない。市川亀治郎振付の素踊りも、もう少し剛毅さがほしかった。
続く座談会は、三響会の亀井広忠、田中伝左衛門、田中伝次郎兄弟に市川亀次郎を加えた鼎談。約40分。
話の素人が4人でくっちゃべっているという感じで、同じことを繰り返す。いちばんひどいのは全体の7割以上を占めるチャリティの宣伝。そのあいまにちょっと自己宣伝が入るといった具合。
「伝統芸能の今」と銘打っているんだから、自分たちの立ち位置と活動を大きな視野から話すべき。実演も加えるべきだ。そのためにも、話をうまく引っ張り出してくれる司会者を立てるべきだ。
それこそがほんとのサービスで、チャリティの話なんか最小限にするべきだ。そんなこともわからない企画者ではどうしようもない。
続いて、一調「屋島」。上演時間6分。
亀井広忠の大鼓と坂口貴信の謡。能単独の演目はこれだけで、亀井広忠の大鼓が楽しめはするが、なにせ時間が短い。
能のファンが来ていないと見て構成上軽く扱ったのだろうが、もう少し大鼓の多彩さを見せ、歌舞伎との違いもわかるような工夫があるべきだ。手抜きと言われてもしかたあるまい。
最後が歌舞伎舞踊「藤娘」。上演時間20分。
これは、亀治郎の切れのいい踊りがいい。若い俳優の持つ瑞々しい香りが劇場全体を包んでしまう。
座席数の割にはこじんまりとしていて舞台が近いこの劇場だから、亀治郎を身近で見られるのはいい。座談会のときの素顔との落差も楽しめるが、これもやはり時間が短くて物足りない。
せっかく山鹿まで行くんだから、もっとちゃんとしたボリュームの公演をやってくれぇ、という公演だった。
この公演は八千代座では1ステージ。ほぼ満席だった。