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《2010. 7月−3》

70年代のド派手な演劇を堪能
【お岩幽霊 ぶゑのすあいれす (流山児★事務所)】

作:坂口瑞穂 演出:流山児祥
11日(日) 14:05〜16:00 西鉄ホール 3500円


 観終わってホールを出るときに会った知り合いの人に、「70年代演劇そのままですね」と言ったら、「そうやね」という答えが返ってきた。
 ほんとにこの舞台は、70年代演劇の持っていた豊穣さをわからせてくれるという舞台だった。ただ、やや古臭く感じるのはしかたがない。

 1951年の北九州。戦死公報が来て死んだと思われていた人斬り半次が帰ってきた。妻のお岩は、パンパンまでやって生き延び、黒人の子を生んでいた。

 脚本は、黒テントの坂口瑞穂が、「四谷怪談」のストーリーを、朝鮮戦争時の北九州でのヤクザの抗争の中での話にうまく置き換えている。趣旨を「四谷怪談」とやや違えているのもおもしろい。
 高い二層の舞台で、中央に大きな階段。両側にも細い階段を備え、立体感もたっぷり。早い転換で、舞台は非常にテンポよく突っ走る。

 演出は70年代演劇そのまま。骨太なのに切れ味は非常によく、これまで観た流山児祥演出作品のなかでもベスト。流山児祥の健在ぶりが喜ばしい。
 70年代演劇らしく、照明も音響もド派手。舞台うしろから客席を照らす強烈な光をはじめとして、情感を強調するどぎつい照明。その奥に静寂を聴くような、耳をつんざく大音響が重なる。
 突然マイクを持って大音量で歌いだしたり、全員で突然踊りだしたり場面転換でのムービングなど、いかにもいかにも70年代演劇で、そんな演出が決まっていて楽しい。

 俳優の演技は、闊達だがやや重いという演技で、これもいかにも70年代演劇。そのような演技は、殺しあうほどの人間関係の濃密さ激烈さを表現するのにマッチしている。
 一瞬の変わり身など、演っているほうも気持ちいいだろうなという演技は、観ていても心地いい。殺陣もけっこう迫力があった。
 本多一夫、瓜生正美の超老優が何ともユーモラス。パンツひとつになる塩野谷正幸は、むかしはカッコよかったが、中年になって太ってしまっていた。時の流れを意識せずにはおれない。

 そんなふうで、70年代にタイムスリップした気分で大いに楽しんだ。

 この舞台は福岡では、西鉄ホールで1ステージ。流山児祥の関係者も押しかけてあるようで、ほぼ満席だった。


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