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《2010.7月−5》

ギンギラ太陽's が、西鉄の宣伝別働隊に見える
【遊園地3兄弟の大冒険 (ギンギラ太陽's)】

作・演出:大塚ムネト
14日(水) 19:05〜20:55 西鉄ホール 4000円


 再演を観ていること、この劇団のワンパターンのスタイルに飽きを感じていることもあって、思ったほどは楽しめない。
 確かに楽しませる仕掛けは福岡の劇団ではダントツであるし、脚本も演出も悪くはないのだが、どこを向いているのかわからない傾向性と舞台の大味さに、いまひとつなじめない。

 まずはじめに「男ビルの一生」が20分。岩田屋の呉服店時代から現在までをたどる物語。
 「天神開拓史」などのこれまでの作品から岩田屋分をピックアップして再構成したという舞台で、楽しめないこともないが、どっかで観た手法にどっかで観た内容ばかりで、新鮮味には乏しい。
 三越傘下に入ったことまでやらないと、ほんとの意味でのリアルタイムの「男ビルの一生」にはならないが、そこまでやれないのは地元への配慮のためか、観客を気持ちよくしたまま終わりたいということか。

 次にメインの「遊園地3兄弟の大冒険」が1時間20分。
 伝説の遊園地を目指す「冒険の物語」はいとうづゆうえんが見る夢。それと実際の厳しい現実を並行させながら、いとうづゆうえんの再生の物語をたどる。今回の東京上演版では、やや強引にジェットコースター繋がりで後楽園遊園地も登場する。

 だざいふえん、かしいかえん、いとうづゆうえんの3兄弟が冒険するという構成で、そこで夢を語らせながら、時空を超えて物語を大きく飛翔させる。そんな二層化の手法がこの作品を成立させている。
 加えて、いろんなモノやエピソードをつぎ込んで話を多彩にするという飽きさせない工夫もある。しかし肝心の、いとうづゆうえんを到津の森公園として再建させた市民の思いと、到津の森公園を活性化した関係者の思いは、「夢見る力」という抽象的な言葉で語られる。
 初演時から状況は変わって、現実のほうが夢を追い越してしまっているのではないか。もはや、夢だけで何とかできるとすることには、お話の世界であってもムリがあるのではないか。そのところをこの舞台は、悪役を強調することで乗り切ろうとする。

 ネズミ(TDL)やネコ(サンリオ)が、現実の代表としての悪者として徹底的に揶揄されるが、そのことには違和感がある。さらに、八景島やシーガイヤまでもなぜ悪者にしなければならないのか、理解に苦しむ。その扱いは、ほんとに何か恨みでもあるのかというほど冷たい。
 何の気配りもせずにライバルや同業者を悪者にしてけなすのは、事実を歪曲して誹謗中傷していると言われてもしかたがない。悪者にされたところは観に来るなととでもいうのか。一般公開される舞台として、それはありえないだろう。
 この点は、予定される劇場中継で全編放送されるか一部カットされるか注目しておくが、しかしほんとは、そんなことを気にしなきゃならないような舞台づくりこそ問題だ。

 そこまで悪者を作り貶しておきながらも、関係者の「夢」の具体化のための努力が十分には描かれずに、いとうづゆうえん再生の最後の切り札は「税金パワー」というのでは、笑い話にもならない。
 それでめでたしめでたしだったら、それまでの「冒険」は何だったの? 結果オーライでいいじゃないか、という適当さにはかなり白ける。

 この舞台は、東京公演が東京ドームシティ シアターGロッソで4ステージ。福岡公演が追加公演も含めて6ステージ。福岡公演の初日を観たが、追加公演のためか少し空席があった。


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