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《2010.7月−9》

女性と能楽の関係の切実さがわかる
【講座・女の立場から能を語る (西日本文化協会)】

講師:久貫弘能
23日(金) 18:30〜20:30 アクロス福岡円形ホール 1200円


 宝生流シテ方の久貫弘能さんの講演(鼎談・実演)を聴いた。
 この方は、わたしの大鼓の先生である白坂保行さんの奥さんで、この講演の後半では白坂先生の話もあって、充実した会になった。

 第一部は久貫弘能さんと林田スマさんの鼎談で、久貫さんの女性能楽師としての思いがうまく引っ張り出された。
 久貫さんは東京芸大在学が13年に及び、その間の研究テーマは「女性と能楽」で、女性と能楽のかかわりの歴史を、中世以前にまで遡って説明してくれる。
 「女性と能楽」研究は久貫さんにとって、自らのアイデンティティの確立のための研究だったのだが、研究を進めるにつれて、女性の芸能の本源的なところ(巫女や遊女)にまでたどり着いてしまう。

 そのことで研究対象と自身のありかたとが分裂してしまう。その過程が語られて、痛々しいほどだ。
 巫女から遊女と、本来ならば神と人々を慰めるための女性の芸能が、男性社会から排除されて、社会から隔離されていった過程がよくわかる。女性にとっては苦悩だ。
 そして、女性能楽師として活躍する今、久貫さんは、そうではないあり方として、能楽世界という男性社会のなかでどう生きるべきかという苦悩を抱えている、ということが語られた。

 第二部は、仕舞を3曲。解説と地謡は夫の白坂保行さん。
 「八島」「井筒」「船弁慶」をうまく解説して、仕舞もよくわかる。久貫さんの仕舞は動きがいいので、声の響きがあればもっといい。

 第三部は、久貫さん、白坂さん、林田さんの鼎談。
 能楽の現況が話されたのち、新作能「山笠」の映像を見ながら、能とそれを作ることの苦労が語られた。映像がわかりやすく編集されていて、映像そのものが楽しめるレベルになっていた。

 この講座は、林田スマと学ぶ「日本の歴史と文化」遊学講座の今年度の3回目。ほぼ満席だった。


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