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《2010.7月−11》

キリッとした小気味いい舞台
【Wannabe-日中韓俳優出演・3カ国語版 (柿喰う客)】

作・演出:中屋敷法仁
25日(日) 18:05〜20:00 しかの心 3本セット券5000円


 BeSeTo演劇祭の趣旨に則った、3カ国の俳優を使って舞台を作るという条件を、ややありきたりと見える方法でやってのけたという舞台だ。
 現代口語演劇に中国・韓国の俳優をなじませて等身大の人物を描いて、キリッとした切れのある小気味よい舞台になった。

 東アジア系の人たちの住む東京のゲストハウス。
 そこの談話室でパーティを開こうとやってきた住人たちは、談話室にいる人に出て行ってもらおうとするが・・・。

 これを日本人だけでやったら、たぶんおもしろくないだろう。3カ国の人々がしゃべるカタコト英語でのやりとりのおもしろさで見せる。
 ネイティブではなくてカタコト英語だからこそ、何とか少しは聞き取れる。必死で言っていることを聞こうと集中する。それで少しづつ状況が見えてくるというのは、ちょっとばかり快感がある。

 結局は、大したことでもないパーティのことに終始していて、そのやりとりの過程がみえるだけなのに、何か楽しい。
 つっぱっていて迫力がある管理人代わりを気取る女性を登場させて対立軸をだすことで、緊張を持続する。
 いかにも住人という女性が、実は幽霊。幽霊とは見えずさりげなく存在しながら(伏線はあったのに気づくのが遅い!おかしいと思わなきゃ)、うわさ話と結びつくことで存在感を増して、結局はメインの舞台そのものを相対化してしまう。
 アフタートークではさらに、全員が幽霊だったという設定でもあったということが語られたが、確かにそれでも通じるなと思うのは、基本的に静謐なまでの表現がリアリティを持っているからだろう。

 東アジアの若者の身体感覚は国によってそうは違わないな、と当初考えたが、それはたぶんまちがいだと考えが変わった。
 俳優は黙っていればどこの国の人かわからない。だから、言葉が違うだけで身体性に大きな差があるとは見えにくい。そして、中国・韓国の俳優たちが日本の現代口語演劇の演技を難なくやっている。だから差はないな、と。
 しかし考えてみれば、現代口語演劇の演技は日本でも、最先端ではあっても主流ではない。それはむしろ特殊な演技なのかもしれない。中国・韓国の俳優たちが現代口語演劇の演技を違和感なくやれたのは、俳優の能力の高さと、演出の力によるものではないか、と。
 中国・韓国の俳優たちの演技が新鮮に見えたのは、たぶんこのような適応を緊張感をもってやれたからということだろう。

 この脚本は、最初から英語で書かれたという。
 その脚本の英語を、ネイティブの人に添削してもらおうとしたら、そのままのほうがいいと言われて、そうしたという。たしかにそうだ、それでこの舞台は成立している。
 演出は、ほとんど同じように見えてしまう俳優を、ちょっとしたことの差でうまく個性づけしている。

 この舞台は、鳥取ではきのうときょうの2回公演。70席ほどの小屋は、ほぼ満席だった。


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