梅若玄祥師が指導する全国橘会の発表会で、能「船弁慶」などを観た。発表会のレベルを超えた舞台で、おもしろかった。
この発表会は「五十五世梅若六郎師三十三回忌追善 偲ぶ会」と銘打たれて、ロビーに写真が飾られている。
午前10時開始で、午後5時終了予定が40分ほど延びた。見たところ、多くない観客はほとんどが関係者で、わたしのようなフリの観客は少ない。
無料の会なのに、入り口でお弁当を渡されてびっくり。「船弁慶」のシテの名前が書いてある。
入場すると、素謡「鸚鵡小町」の終わりのほう。そのみごとにそろったハーモニーは実に美しくて聴き惚れた。地謡が梅若玄祥師はじめすごい人ばかりだからこうなる。
素謡「鸚鵡小町」のあと休憩。そのあと「船弁慶」までに舞囃子が3つあり、それがすべて年配の女性の発表。地謡や囃子はぜいたくな布陣だが、そこは発表会で、アマとプロの差は大きい。
ただ、囃子の手元を見て謡の声に耳を澄ませば、それだけで十分に楽しめる。
能「船弁慶」は、発表会とは思えないほどの迫力があった。
シテ(前シテ:静御前 後シテ:平知盛の亡霊):植田恵美子、子方(源義経):鷹尾雄紀、ワキ(武蔵坊弁慶):宝生閑、アイ(船頭):野村万緑。ワキが人間国宝というぜいたくさ。
宝生閑の、どんどん前に出て行く動きのいいこと。そのしゃべりは口語的でわかりやすい。アイの野村万緑とのやりとりなど、現代劇かと思わせるほど。その野村万緑は、嵐が始まってからの棹さばきを、囃子と合わせてダイナミックに演じていて見せた。
シテの植田恵美子は、面と衣装の助けもあって、前シテの静御前と後シテの平知盛の亡霊を演じ分けた。子方の鷹尾雄紀は、すがすがしい源義経だった。
この「船弁慶」を観たら帰るつもりでいたが、武市学師の笛が気になって、残り5番の舞囃子も観た。
囃子を聴いていたら、謡いと大鼓・小鼓が作り上げたものを太鼓が相対化し、相対化したものを異質な笛の音で突き崩す。武市学師の笛にはそんな力を感じた。
番外仕舞は、観世喜正師と梅若玄祥師。プロの技を見せつけられる。梅若玄祥師は全部の地謡に出られていた。そのスタミナにもびっくりする。
そんなふうで、ずいぶん楽しませてくれた発表会だった。