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《2010.9月−3》

伝統芸能には及びもつかない
【水をめぐる2 (こふく劇場)】

作・演出:永山智行
4日(土) 18:35〜19:50 パピオビールーム大練習室 1800円


 これまで観たこの劇団の舞台や、上演された主宰の戯曲の上演を観てきて、この「水をめぐる」シリーズではこの劇団の力が十分には発揮されていない。
 前作「水をめぐる」もそれほどおもしろくなかったが、この舞台は前作よりもっとおもしろくなくなっていた。

 7歳年下の夫に先立たれた女。遺骨を海に流してくれという夫の遺言に従って、女は海を探して歩くが・・・。

 前説で主宰から、この作品は「伝統芸能を手がかりに、ふざけながら作った作品」という説明があった。
 冗談混じりとはいえ、この発言には違和感があった。伝統芸能と観客をともにバカにしているんじゃないか、と気になった。
 舞台は見かけ倒しで、突っ込みも積み上げも弱くてこの劇団らしくない。前説で語られたような創作の姿勢を反映したできばえだった。

 この舞台は残念ながら、伝統芸能の豊穣さには及びもつかない。
 伝統芸能の内容も技術も伴わない淡白な舞台で、古典芸能の持つ磨き上げられた凝縮性も、民俗芸能の持つ持続するエネルギーも感じられない。
 ただ形をまねているだけで、心は置き去りにされたままだ。

 この舞台から粉飾を取り払ってみれば、その貧相さが見えてくる。
 踏み板をバンバンと踏み鳴らすことや、和風の打楽器でその調子を取ることは、伝統芸能とは関係ない。
 カクカクした身体の動きも、作る側が様式的と思ってやっているだけで、伝統芸能とは関係ない。
 それらは単調は繰り返しだけで深みに乏しくて、表現的にはほとんど効果をあげていない。

 内容は、妻が夫の死んだあとに夫の愛を確認するという話。それを淡々と展開するだけ。
 セリフも、「ライセでカイコウ」が「ヤスネでカイコ」と間違えたというレベルで、何のおもしろみもない。
 突然のアグネス・チャンの歌は、40年も前から使い古された手法であって、ちょっとくすぐるだけでインパクトは弱い。
 人格融合・分裂も全体のしかけが弱くて全体と絡まないために、演劇的なおもしろさには繋がらない。
 遊んでもいいが、全体をパワーアップするようなもっと高いレベルで遊ぶべきだ。

 そんなふうに、この劇団らしくないアプローチになってしまっていることが残念だ。
 それでも前作「水をめぐる」ではまだ、観終わったあとに硬質なものが残った。身体に対するこだわりもあった。
 この「水をめぐる2」では、ロードムービー的に展開していくだけでわかりやすいが、残るものは希薄だ。

 この舞台は、ぽんプラザホール10周年記念 福岡・九州演劇祭の招待公演で、きょうとあすで2ステージ。ほぼ満席だった。


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