全く違ったアプローチで硬質な宮園瑠衣子の2つの戯曲に取り組んだ舞台は、その舞台成果も対照的だった。
「よかっちゃん」は、思いもかけないような奇抜な演出で楽しませてくれた。2作品をこう並べられると、あまりに大きい演出の力の差が歴然としてしまう。
「春、夜中の暗号」(演出:幸田真洋)
狭いアパートの男女。どうやら夫婦ではないらしい。
3月31日の午後11過ぎに、男の中学時代の友だちが、男の姉から送ってきたといって、カニを持ってやってくる。
宮園瑠衣子の戯曲は、シンプルな構成のなかに繊細なセリフを積み重ねて、まさに「静かな演劇」そのもの。
監禁されていた女が、監禁前の生活と今のどちらが夢か現実かがわからなくなってしまっている、という女の世界の二重性で、男女の暗い生を引っぱりだす。
それには男女の距離感の変化が重要で、戯曲にはそれを表す情報が込められている。それを演出がどう俳優の身体によって見せるか、が上演のポイントだとみた。
だが演出は全く大雑把で、この戯曲の繊細さを殺してしまった。
コンテクストの読み取りができていないから、繊細なセリフも生きない。緊張のない弛緩した演技で、虚脱感やわずかな充実感などの身体表現がないから、セリフは上滑りになってしまって、男女の距離感は出てこない。
男女の関係に徹底的な影響を与える男の友だちさえも幻想だという示唆があるのだから、この男を演じるにはわわしいけれど静謐でもあるという、紗をかけたような演技が必要なんだろうが、とてもとても。
演出は、研鑽が足りない。もっと基本的な勉強をするべきだ。上演時間45分。
「よかっちゃん」(演出:わたなべなおこ)
休業した居酒屋の2階の住居で、暑さの中いらだつ姉とその機嫌をとる弟。そこに、失職したばかりの姉の友だちや、リフォーム会社の社員がやってくる。
宮園瑠衣子の暗くきびしい戯曲を、エンターテインメントでやろうという発想に、まず度肝を抜かれた。
しかし単純にエンターテインメントではなくて、基本部分は押さえたうえで戯曲を大きく引き伸ばしていて、楽しめた。
観客参加型で、開演前に観客全員がセミの声の練習をさせられ、劇中4回もセミの声をさせられる。
姉が弟の背中に飛び蹴りを食わせてひっくり返るところから始まって、大声でわめき大げさに動き大げさに絡む。客いじりもやる。突っ込んで引っぱりだして大きくデフォルメして、飽きさせない。
そんなふうで、暗い話なのに、舞台は超明るくてエネルギーに満ち溢れていた。
俳優たちが生き生きと演じていた。リアルな演技と大げさな演技の両方をやらせてその落差を演じ分けることで、俳優の魅力が思い切り引き出されていた。
中村雪絵は持ち前のキャラだが、ぽち、山口浩二、酒瀬川真世はこれまで観たなかでベストの演技だった。初めて見る旋風三十郎も、こんな俳優どこにいたんだというほどいい。
黒子役も兼ねるコロスの岡本直樹と権藤拓は東京からのようだ。海パンひとつで動き回る。
最後のセリフひとつで、それまでの舞台に強烈なマイナスバイアスをかけて、それまでの虚構性、虚妄性を一瞬で突き崩す。
そんなふうに、演出のおもしろさを堪能した舞台だった。
この演劇祭のために作られた舞台のなかではダントツに高い付加価値を付けたこの舞台だが、福岡の演出家によるものではないのが残念だ。上演時間45分。
この公演は、ぽんプラザホール10周年記念 福岡・九州演劇祭の企画。プレビュー公演が2ステージあって、本公演はきのうときょうで2ステージ。満席だった。