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《2010.9月−11》

エネルギッシュなフォーラムで、充実
【フォーラム「身体の越境〜オン・ケンセンの挑戦〜」 (福岡市)】

講師:オン・ケンセン 進行役:内野儀
18日(土) 13:30〜15:35 イムズホール 無料(入場整理券)


 ことしの福岡アジア文化賞・芸術文化賞受賞者であるオン・ケンセン氏によるフォーラムがおもしろかった。
 題は「身体の越境〜オン・ケンセンの挑戦〜」。シンガポールを拠点に世界で活躍する氏の、映像を使ったエネルギッシュなフォーラムは、充実していて聴き応えがあった。
 進行役は内野儀氏(東京大学大学院総合文化研究所教授)。

 オン・ケンセン氏は、1963年生まれ。
 大学法学部在学中に演劇活動を始め、シアターワークス演出家として活動。30歳ごろにアメリカ留学し、1995年にニューヨーク大学大学院パフォーマンス研究専攻修士号を得ている。

 その仕事の理解のポイントは、「インターカルチャリズム(間文化主義)」「プロセス重視」「助成金」。
 「インターカルチャリズム(間文化主義)」は、1990年代の「リア」「デズネモーナ」に代表されるもの。いずれも福岡で上演されていて、「リア」はわたしも観ている。
 「プロセス重視」は、「フライング・サーカス・プロジェクト」で、出会いの組織してワークインプログレスを大事にする活動。
 「助成金」は、「アーツネットワークアジア」という組織を立ち上げて、自らファンドレイジングして助成していく仕組みを作った。

 映像は、「リア」、「コ・コンティニアム」、「ゲイシャ」、「サンダカン送葬歌」、「ダイアスプラ」に、オン・ケンセンさんの熱のこもった解説がつく。
 「リア」は参加した6ヶ国の俳優がそれぞれ母国語でしゃべる。「みな違う。それでも会話しなければならない」の舞台化。
 「コ・コンティニアム」、「サンダカン送葬歌」、「ダイアスプラ」は、ボルポトのカンボジア、太平洋戦争直後のシンガポール、ベトナム戦争前後のベトナムを取り上げ、戦争の中の抑圧された人々を描く。
 「ゲイシャ」は、ゲイシャパトロンになった男とその妻を通して男性舞踊家が演じるゲイシャを語らせて、ゲイシャのステレオタイプの破壊を狙う。
 それぞれに強烈なシーンや印象的なシーンが多くて、舞台の豊穣さが想像できた。ものすごくパワーがある舞台だ。2000年代は表現がさらに先鋭になっているのがわかる。

 このフォーラムの定員は400人だが、かなり空席があった。聴衆は年配者が多く、途中の休憩で帰った人も若干いたようだ。聴衆に中に演劇人の姿を見かけないのが異様だった。


 午後6時から、地元の演劇人との交流を目的とした文化サロンがあり、30分ほど遅れたが、参加した。非常におもしろかった。
 ここでも映像を映写して解説。進行役は引き続き内野儀氏。

 「戦争」「慰安婦」「将軍」のシーンは、容赦のない日本批判になっていて、昼のフォーラムで映写しにくかったということか。
 映像もさらに先鋭的で、印象的を通り越して挑発的であるが、表現は多様化していて、「ファン(楽しみ)」「キャンプ(芝居がかり)」「異化効果」を融合させて、ほんとにアーツでエンターテインメントになっている。

 午後7時40分ごろ終了。10人強の参加者は演劇関係者がほとんどで、演劇人の参加が非常に少ない。フォーラムも含めて、このイベントに反応しない福岡の演劇人の上昇志向のなさがわかる。


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