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《2010.9月−13》

重いテーマ、脚本に限界
【ビリーバー (世田谷パブリックシアター)】

作:リー・カルチェイム 演出・上演台本:鈴木秀勝
19日(日) 15:05〜16:45 福岡市民会館・大ホール 5300円(割引チケット)


 センスのいい舞台なんだけど、詰めが甘い。後半失速して、腰砕けになってしまったのが残念だ。

 サンタクロースを信じる天文学者とその妻、息子などとの、サンタクロースに対する思いの齟齬が生み出す、やや物悲しいお話。

 扱っているのは、「宗教が持つ『好戦性』の克服」という重いテーマだ。
 その「好戦性」の克服をサンタクロースに求めるという問題提起の前半部分は快調だが、この問題、そう簡単には越えきらず、後半部分は難渋する。

 9.11を、「神」の間の戦いとして捉える。
 「神」どうしはそのバージョンが違うだけなのに、ひとつの「神」がなぜ他の「神」を排除しようと暴力を振るうのか、という問題が提示される。
 そして、それを解決するためには、おおらかで優しい存在であるこのサンタクロースこそ、私たちが信じるのに理想的な神さまなのではないか、と天文学者は考える。
 そこはいいのだが、そのサンタクロース探しと、見つけた中途半端なサンタクロースの話に力を注ぎすぎた。そして結局、そこから抜け出せない。

 見つけたサンタクロースは、俗っぽく描かれていて、とても「神」には見えない。家族との話などでも劣勢な天文学者は、孤立して家から追い出されてしまう。
 彼は宇宙の成り立ちから説き起こして、人類が生き延びて文明化した奇跡に比べたら、サンタクロースの存在など当然だと、まっとうな主張をする。
 それで舞台をひっくり返せるか、正念場を迎えるのだが、作者はそこを掘り下げることなく、天文学者に死によって、情緒的にごまかしてしまう。
 結局、せっかく積み上げたきた「暴力的な神」に対峙する「サンタクロース」は、ほんとの姿どころかイメージさえも顕わさない。
 なんともやるせない結末だが、サンタクロースにさえも頼ってはいけないよ、というメッセージなのか。

 舞台は、重いテーマをすっきりと軽くテンポよく進めた。小技に熟練した鈴木秀勝の手腕が楽しめる。
 1辺60センチほどの黒い立方体をたくさん舞台に置いて、それを効率よく動かして舞台装置にする。20役を演じ分ける川平慈英の早替りも楽しめるし、それぞれの役もなかなかいい。
 天文学者の勝村政信は、軽やかなのはいいが余裕に見えた。もう一歩テーマに踏み込んでもよかった。息子の風間俊介は9歳を演じるにはちょっとムリがある。
 妻の草刈民代は、他の2役も合せてバランスを取っている感じだが、舞台俳優としては動きも表情もイマイチ。でも、抜群のスタイルに見とれてしまって、それだけで満足だったが。
 演技は全体的には、重いテーマを担ったセリフを語る緊張があったのは悪くなかった。それなのに後半晦渋になったのはひとえに脚本のためであるが、それから先は自分で考えろ、と作家から投げ返された気もしないでもない。

 この舞台は福岡では1ステージ。かなり空席があった。


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