ダメ人間をほろ苦く描いた内藤裕敬らしい世界を楽しんだ上に、戯曲と演出の構造も見えておもしろかった。
この舞台が主としてオーディション合格者による上演のために、南河内万歳一座の舞台ほどには演技のレベルが高くないことで、戯曲と演出の構造が見えやすくなっていた。
女性教師の部屋に集まった4人の女性教師たち。
キャンプでの水の事故に関わる幽霊の話から、失踪したタニという同僚の男性教師の話に。タニは、同僚はおろか校長からも借金しまくっていた。
いまどきマグロ船かよ、とか、街金の女社長が取り立てにくるかよ、とか、ツッコミどころいっぱい。
それのツッコミどころを意識しないほど話は勢いよく進む―と言いたいところだが、そうはいかない。勢いに乗れずにときにギクシャク。南河内万歳一座の舞台とは勢いの差がある。
些細なことを取り上げて枝葉を拡げ、それを様式的と見えるほどに大げさに表現して、大きく膨らみながら転がっていくというのが内藤戯曲の構造だ。
これを南河内万歳一座の俳優が演じたとすれば、テンション高く演じるので、それに呑み込まれてしまって、却って戯曲の構造がつかみにくい。
この舞台からは、たたみかけるテンポとパワーで観客に目潰しを喰らわせるという点が弱い分、枝葉もけっこうおもしろいということも見えてくる。
南河内万歳一座の上演だったら、頭の上をかすめて行って引っかかってこないことが、テンションが高くないがためにここでは引っかかってくる。それが舞台のリアルさになっている。
演出は、ダイナミックに動く集団演技や、大げさな動きで全体を巻き込んで一瞬で状況を変えていくなど、80年代小劇場そのものであり、その乗りは吉本新喜劇に近い。
ダメ人間のダメさを描きながら、でもでも、この舞台にはそれだけではないロマンを感じてしまう。それ何なんだろう。登場人物への作者の愛情かな。
この舞台は、演劇ワリカンネットワーク・トリプル3の初年度3本のうちの1本。
演劇ワリカンネットワーク・トリプル3は、「(劇団×ホール)×3地域=3戯曲 3戯曲×3年間=9作品」を上演するという企画。
参加劇場は、富田林市すばるホール(大阪)、三重県文化会館(三重)、長久手文化の家(愛知)。参加劇団は、南河内万歳一座、太陽族、ジャブジャブサーキット。
内藤裕敬、岩崎正裕、はせひろいちの戯曲を、初年度のことし3地域で作って上演し、同じ戯曲を来年は別の地域で作って上演して、再来年で同じ戯曲が3地域すべてで上演される。
いい企画だと思うけど、不思議なのは、例えばこの「あらし」の上演は富田林市すばるホールだけ。
他の劇場に持って行って公演数を3倍にして、制作費を回収してこそのワリカンネットワークじゃないのかという気がするのだが、どうなんだろ。
この公演は地元の人でほぼ満席だったが、他劇場で創った舞台は集客がむずかしいのかな。