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《2010.9月−19》

内藤戯曲の構造がわかる
【あらし (富田林市文化振興事業団+トリプル3)】

作・演出:内藤裕敬
25日(土) 14:05〜15:30 富田林市すばるホール 2000円


 ダメ人間をほろ苦く描いた内藤裕敬らしい世界を楽しんだ上に、戯曲と演出の構造も見えておもしろかった。
 この舞台が主としてオーディション合格者による上演のために、南河内万歳一座の舞台ほどには演技のレベルが高くないことで、戯曲と演出の構造が見えやすくなっていた。

 女性教師の部屋に集まった4人の女性教師たち。
 キャンプでの水の事故に関わる幽霊の話から、失踪したタニという同僚の男性教師の話に。タニは、同僚はおろか校長からも借金しまくっていた。

 いまどきマグロ船かよ、とか、街金の女社長が取り立てにくるかよ、とか、ツッコミどころいっぱい。
 それのツッコミどころを意識しないほど話は勢いよく進む―と言いたいところだが、そうはいかない。勢いに乗れずにときにギクシャク。南河内万歳一座の舞台とは勢いの差がある。
 些細なことを取り上げて枝葉を拡げ、それを様式的と見えるほどに大げさに表現して、大きく膨らみながら転がっていくというのが内藤戯曲の構造だ。
 これを南河内万歳一座の俳優が演じたとすれば、テンション高く演じるので、それに呑み込まれてしまって、却って戯曲の構造がつかみにくい。

 この舞台からは、たたみかけるテンポとパワーで観客に目潰しを喰らわせるという点が弱い分、枝葉もけっこうおもしろいということも見えてくる。
 南河内万歳一座の上演だったら、頭の上をかすめて行って引っかかってこないことが、テンションが高くないがためにここでは引っかかってくる。それが舞台のリアルさになっている。
 演出は、ダイナミックに動く集団演技や、大げさな動きで全体を巻き込んで一瞬で状況を変えていくなど、80年代小劇場そのものであり、その乗りは吉本新喜劇に近い。

 ダメ人間のダメさを描きながら、でもでも、この舞台にはそれだけではないロマンを感じてしまう。それ何なんだろう。登場人物への作者の愛情かな。

 この舞台は、演劇ワリカンネットワーク・トリプル3の初年度3本のうちの1本。
 演劇ワリカンネットワーク・トリプル3は、「(劇団×ホール)×3地域=3戯曲 3戯曲×3年間=9作品」を上演するという企画。
 参加劇場は、富田林市すばるホール(大阪)、三重県文化会館(三重)、長久手文化の家(愛知)。参加劇団は、南河内万歳一座、太陽族、ジャブジャブサーキット。
 内藤裕敬、岩崎正裕、はせひろいちの戯曲を、初年度のことし3地域で作って上演し、同じ戯曲を来年は別の地域で作って上演して、再来年で同じ戯曲が3地域すべてで上演される。

 いい企画だと思うけど、不思議なのは、例えばこの「あらし」の上演は富田林市すばるホールだけ。
 他の劇場に持って行って公演数を3倍にして、制作費を回収してこそのワリカンネットワークじゃないのかという気がするのだが、どうなんだろ。
 この公演は地元の人でほぼ満席だったが、他劇場で創った舞台は集客がむずかしいのかな。


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