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《2012.4月−5》

嗚咽こらえるのがたいへん
【シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ (音楽座)】

作曲:筒井広志 脚本:横山由和 演出:ワームホールプロジェクト
15日(日) 12:35〜15:25 ももちパレス 3,430円


 かなり極端な「泣かせ」のミュージカルで、どこまで涙腺を刺激してくるんだ!という舞台。トコトン引っぱるしつこさもまた、名作の条件になるのだな。
 ほんとに、どうしても観たかった日本オリジナルミュージカルの傑作のひとつ。ふぅ、やっと観られた。

 作曲家を夢見る悠介は、遊園地の迷路で佳代と出会う。
 孤児だった佳代は、育ての親から強要されてスリをしてきていた。佳代は、悠介と同じ喫茶店に勤めるようになり、ふたりは愛し合うようになる。

 始まってから早い時間に、佳代が育ての親に折檻されて13歳で死んだことが示される。
 その佳代がなぜ生きているかという謎は、開演1時間後に解かれる。生命操作が可能な宇宙人が、仲間の生命素の一時的な保管場所として使うために佳代を生き返らせたのだった―と、途中からSFが入りこんでくる。
 宇宙人の超能力に絡めて、ムリな展開を納得させる。宇宙人の世界はけっこう新鮮で、地球人に化けての地球人とのやりとりが笑わせる。

 ふたりの愛は成就寸前まで行くが、地上げ屋となっている佳代の養父が喫茶店を地上げしようと現れる。養父は佳代に、スリに戻ることと肉体関係の復活を迫る。佳代は父親を殺してしまい、服役する。(うぅ、暗転!)
 悠介は、芽が出かかっていた作曲家への夢を捨てて、佳代との獄中結婚を決意。手続きのために刑務所に向かうが、途中飛行機事故で死んでしまう。(もぅ、絶体絶命!!)
 そこからは宇宙人たちの活躍で悠介は生き返り、ふたりは愛を成就させ人生を全うする。
 まぁ、観ている間は悠介と佳代に完全に感情移入しているから気がつかないが、こうやってあらすじを書いていくと、ムリな状況を無理やり突破していることがわかる。

 そんなストーリー展開に込められた、何とかなるという未来を疑わない能天気さや、人物の明るさ単純さは、まさにバブル全盛の80年代そのものだ。衣装や装置など舞台全部が80年代の雰囲気そのものだ。
 ただ、喫茶店の地上げ代金が5億円とまさにバブル期そのままの価格が出てくるが、そのあたりは現在から見れば若干の違和感はある。

 冒頭の佳代がシャボン玉を飛ばすシーンから、ひたすらに悠介と佳代に感情移入しつづけて、ジェットコースターのように上下するふたりの運命に一喜一憂するようにと、そこに最も重点を置いて作られている。
 そこに乗ってしまえば、少々な矛盾やご都合主義は無視できるどころか、そんなベタさが気持ちよくなってさえくる。
 ハッピーエンドにならなかったら溜めた涙の持って行き場所がないが、ハッピーエンドだから思い切り泣ける。そこまで手加減なしでやって徹底的に泣かせたから、名作ミュージカルになったということなんだろう。

 この舞台は、福岡市民劇場4月例会作品で、福岡では9日から15日まで8ステージ。福岡でのラストステージを観た。満席だった。


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