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《2012.4月−10》

ラフさチグハグさにも魅力が
【アンティゴネ/寝盗られ宗助 (岡崎藝術座)】

原作:ソポクレース/つかこうへい 演出:神里雄大
27日(金) 19:35〜20:45 早川倉庫(熊本) 2,000円


 ふたつの戯曲の組み合わせの妙はうまく発揮されず、ラフさチグハグさが感じられた。しかしその雰囲気がどこか魅力的だった。
 つかこうへいの口立てによるセリフのすごさが際立っていた。

 王の掟を破って、野ざらしにされた兄の遺体を埋葬しようとする「アンティゴネ」。
 妻の駆け落ちの相手に徹底的に親切を尽くす「寝盗られ宗助」。

 この舞台では2つの話は融合せず、部分的に抽出されてそれぞれが2つに分割されて、その4つがシリアルに並べられる。出演者は4人で、女優は1人だけ。
 オープニングは、俳優ひとりによる作者の表現についての思いの表出が約5分。
 次に、「アンティゴネ」のアンティゴネ、叔父である王・クレオン、妹・イスメーネ、許婚・ハイモン(クレオンの息子)のやりとりを約35分。
 そのあと、「寝盗られ宗助」の 宗助座長−その妻・レイ子−座員・ジミー の三角関係の部分が約15分。
 さらに、「アンティゴネ」と「寝盗られ宗助」のラストが約10分のあと、オープニングに対応するフィナーレが約5分。

 オープニングの俳優の片足立ちの不自然な姿勢は、チェルフィッチュの「三月の5日間」そのもので、その演技パターンはこの舞台の基調をなす(実際にそのような演技の元祖ともいうべきチェルフィッチュの山縣太一が客演している)。
 そのような演技は、「アンティゴネ」の荘重なセリフとはまったく整合しない。動作も小さくて薄くしていて意図的に表現を弱めていて、ギリシア悲劇の荘厳さを否定するような淡白な舞台にしていた。そんな趣向はわかるが、観ていておもしろいというものではない。

 それが、「寝盗られ宗助」になると、がぜん大声、大きな動作になる。本来のつか芝居ほどではないが。
 妻の駆け落ちを支援し、駆け落ち相手に徹底的に親切を尽くす。それが妻の至上の愛の表現だと信じている宗助の、屈折した自虐的な愛情表現が激烈に繰り広げられる。つかこうへいの口立てによる、激しく突っ込んで掘り起こし膨らませたセリフは、それまでの楚々としていた俳優の身体性までを変貌させてしまう。そこから発せられる激しくて切れのあるセリフでつか芝居の世界が立ち現れ、その迫力に圧倒されながら大笑いしてしまう。
 ここでの「アンティゴネ」との雰囲気の差はおもしろいが、それが狙いだったとも思えない。結果として、共通点を見ようとしながらその差を引き立たせてしまっていた。

 フィナーレ前のラスト部分では、「アンティゴネ」では原作に書かれていない部分が補てんされていたが、「寝盗られ宗助」では原作の最後の部分がカットされていた。ふたつの原作をやや丸めてしまっていたのは物足りない。
 全体的には柔軟ではあるが戸惑い気味の表現も多く、新しい表現を模索中という感じだ。親しみやすい印象になるが物足りなさにもなる。しかしそのラフさチグハグさにもどこか魅力が漂うという、そんな舞台だった。

 この舞台は熊本では27日から29日まで3ステージ。早川倉庫には初めて行った。席が少ないこともあり、立見の方もおられた。


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