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《2012.4月−12》

武田孝史師の仕舞のすごさにビックリ
【第16回ふくおか市民能 (福岡市能楽協議会)】

構成:福岡市能楽協議会
30日(日) 14:00〜16:55 住吉神社能楽殿 3,000円


 宝生流の武田孝史師の「砧」の仕舞に、目が釘づけになった。
 とてもリーズナブルなお能の会だが、ものすごいものを見せてもらった。他の番組も充実していた。

 今回のお能の番組は、九州ゆかりのものが選ばれている。
 まず、きょう上演される番組について、太鼓の吉谷潔師が関連するエピソードをまじえながら解説された。わかりやすかった。
 そのあと、きょうのお能「花月」のシテをつとめる観世流の木月晶子師の紹介と話があった。

○舞囃子「唐船」(宝生流 シテ:石黒孝)20分弱
 舞われたのは「唐船」の最後の部分で、大陸的な「楽」とう舞は力強い。「バンシキ」という小書きで曲想が変わるというが、わたしの力ではうまく聴き取れない。

○狂言「柿山伏」(和泉流 シテ:吉良博靖 アド:住吉講)約15分
 柿の木に登って柿を食べた山伏をなぶる柿の木の持ち主。山伏が木から落ちてからが流派で違うようだが、ここでは、山伏が持ち主を呪文で引き寄せようとするのに、持ち主が呪文が効いたふりをしてさらになぶる、というのがおもしろかった。
 今回は野村万緑師は後見で、若手の2人がシテとアドをつとめたが、安心して観られた。

○仕舞「砧」前(観世流 鷹尾祥史)約10分
 「砧」の前の仕舞どころで、都にいる夫に聞こえよとばかり砧を打つ妻を、強い調子で舞う。

○仕舞「砧」後(宝生流 武田孝史)10分弱
 「砧」の後の仕舞どころで、夫への恋慕から成仏できない妻が弔う夫の前に現れ不実を訴える。
 舞い始めから武田孝史の舞に目が釘づけになる。形のよさがそのまま、よけいな動きをまったく排除して動いていく。キッと決まる動きにもグッと胸を突かれる。10分弱の舞台が終わったら呆然となるほどだった。あとでお能の先生に訊いたら、まれに見る名演だったということだった。

○仕舞「籠太鼓」(喜多流 粟谷幸雄)約5分
 脱獄し逃亡した夫に代わり牢に入った妻が、夫に届けと狂乱の体で太鼓を打つ「鼓の段」。力強い舞だった。

○狂言「文荷」(大蔵流 シテ:川邊宏貴 アド:篠原太一 秋吉英二)15分強
 主人の恋文を2人で届けることになった太郎冠者と次郎冠者。恋文を盗み読みしてゴチャゴチャやっているうちに恋文を破いてしまう。
 だが2人ともけっこう強気なのは、若い男あての恋文だからで、そのあたりが顕れていておもしろかった。

○能「花月」(観世流 シテ:木月晶子)約55分
 筑紫英彦山わが子を天狗にさらわれた筑紫英彦山の人は、出家して諸国を巡り清水寺にやってきた。門前で面白い遊芸をする少年・花月と会う。
 それほど長くない曲だが、「小歌」「曲舞」「鞨鼓舞」といった中世芸能の芸づくしという曲。配布された詞章にその個所が書かれているので鑑賞しやすく、それぞれの芸もよくわかる。
 木月晶子の花月はいかにも少年らしい初々しさに溢れている。その花月の衣装の色づかいが何とも魅力的だった。

 番組を理解するためにと、A4版8ページのパンフと、舞囃子・仕舞まで含めた詞章が配布される。舞囃子・仕舞の解説では、曲全体のストーリーを書いた上で舞われる場面を解説するというていねいさで、実にわかりやすい。
 年に1回の市民能は、リーズナブルな料金で各流派のたくさんの能楽師を見られるチャンスだ。用意されたパンフの数が足りなくなるほどの盛況だった。


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