福岡演劇の今　20120501　彼女ⅲ

《2012.５月－1》

緩いストレートばかり投げられているという感じ
【彼女ⅲ　（揮発タブレット）】

作・演出：山下キスコ
1日（火） 14：05～15：10　konya-gallery 　プレゼントチケット

　おもしろくないこともないが、緩いストレートばかり投げられているという感じで物足りない。剛速球や胸元をえぐるような変化球もほしいという舞台だった。

　男の誕生日に男のワンルームに男を訪ねてきて、鉢合わせした4人の女。
　彼女らは、自分こそがホンカノだと主張しあってにらみ合うが、次第に男をシェアしようという話に流れていく。

　細長い部屋の中央に座卓とボックスとイスがあり、そこが舞台。客席は舞台をはさんで両側に30席ほど。
　やや年増、それなり、ブス、ギャルを演じる4人の役者は、それぞれに個性的だ。ブス役に男性俳優を起用してアクセントをつけている。だが、役者が個性的であるほどには役は個性的には描けておらず、役者たちが完全燃焼しているとは言いがたい。
　設定は悪くないが、キャスト表に5人目の女が入っているのを見れば、ストーリーが開演前に大体読めてしまう、というのはつらい。

　そこを補正するためのエピソードがありきたりで薄い。そのエピソードの力のなさが、表現の力のなさを惹起している。
　女たちと男との関係がかなりいい加減だということが見えてきたのはいいとしても、もっと突飛なインパクトのあるエピソードがたくさんあってもいいし、別々の女のエピソードが男を通して関係づけられてもいい。
　たっぷりのエピソードがあれば、それらは絡まり渦巻き大きな雰囲気を作っていくはずだ。それをどうにか伝えようとすれば、表現的にも広がるはずだ。
　そうすればまず、それぞれの女の心の襞がもっと鮮明に表現できるだろう。思いの表現には、独白などで時空を拡げてもいいし、ダンスと歌で思いをぶつけてもいい。

　有効なエピソードが出てこないのは、作者の、描く対象へのイメージが弱すぎるためではないか。
　まずは、女たちのそれぞれを十分にはイメージできていない。だから、それぞれの女の男との関係の多様さも十分には広がらない。その結果、本来ならば見えてくるはずの男の個性もほとんど見えてこない。
　女たちはもっと語るべきドラマを持っているはずだが、そこへの踏み込みが弱く、語るべきことが語られていない。それがないから設定されたシーンのインパクトも弱い。
　観客に本気で伝えようとするならば、細部に至るまでもっと多彩な情報を詰め込んで、具体的にイメージをもっともっと強く固めていかなければ、きめ細かな振幅のある表現は生まれてこないだろう。

　この舞台は4月28日からきょうまで5ステージ。満席だった。

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緩いストレートばかり投げられているという感じ【彼女ⅲ （揮発タブレット）】

作・演出：山下キスコ1日（火） 14：05～15：10 konya-gallery プレゼントチケット

緩いストレートばかり投げられているという感じ
【彼女ⅲ　（揮発タブレット）】

作・演出：山下キスコ
1日（火） 14：05～15：10　konya-gallery 　プレゼントチケット