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《2012.5月−4》

バトル度は高くないが、戯曲のおもしろさは見えた
【フリータイム (雨傘屋)】

作:岡田利規 演出:天野天街
5日(土・祝) 14:00〜14:50 ギャラリーADO(熊本) 1,800円


 岡田利規の戯曲を天野天街が演出することで戯曲が却ってよくわかって、そこはおもしろかった。
 ただ、岡田利規調がベースでバトル度がそれほどでもなかったのは、ややは物足りなかった。

 ある契約の女性が、ファミレスで過ごす毎日の出勤前の30分のフリータイムを描く。

 表現方法が両極端な異種とも見える演劇人をかけあわせて火花を散らさせるという雨傘屋の秀逸な企画。昨年の 平田オリザ×天野天街 がとてもおもしろかったので、今年の 岡田利規×天野天街 にも出かけた。
 今年のほうが2人の演劇人の乖離がさらに大きいと思うので、どういう舞台になるのか想像がつかなかった。実際の舞台は、基本岡田利規テイストに天野天街をピリッとまぶしたという感じだった。岡田利規のセリフを天野天街流の表現で突き崩して再構成してくれたら全く別の演劇世界が展開するだろうという期待は裏切られた。
 バトル度が低くてそこは残念だが、舞台は岡田利規の特徴が強調された形で非常にわかりやすくて、頭の上を通り過ぎて行ったという感じだったチェルフィッチュの「フリーターム」観劇時の遅れをとり戻したような気分になった。

 喫茶店2階の長方形のスペースの中央にテーブルと2つのイスがあり、そこがファミレス。客席はその両側に30席ほど。出演する俳優は女性4名と男性2名。
 舞台は、しゃべりも動きもチェルフィッチュ調で、リアルなしゃべりとしゃべりに即応しない独特の身ぶりとで展開する。ただし、よく見ていくと演出の違いはある。
 いちばんの違いは、舞台のスピードだ。チェルフィッチュ公演で80分だった上演時間がこの舞台では50分だったから、圧倒的にスピードアップされているのがわかる。スピードアップされた分、この作品の特徴がわかりやすく顕れていた。
 「三月の5日間」で顕れた「出来事の報告者」としての視点で語られる舞台が、この「フリータイム」では複数の視点をダイナミックに切り替えながら展開するように、さらに押し進められている。この舞台では、テンポよく軽やかに語り手が移り変わっていくことで、複数の視点が見ている差異がクッキリと顕れた。
 セリフの一部が壊れた蓄音機のようにエキセントリックに繰り返される。女の1人が大きなパイプで煙草を吸う。柱に貼り付けてあるセリフの一部を指で撫でながらセリフを言うなどの演出は味付けとしてはおもしろかったがガツンとくるほどではない。ただ、ラストをすんなりとは終わらせずに、「フリーターム」のすばらしさを賛美するような大音声でのパンチアウトはちょっとおもしろかった。

 天野天街は俳優の努力を讃えているが、演技にはかなり不満もあった。
 違和感があったのは、みぶりだ。セリフに引っぱられすぎていて、セリフの説明・後追いになっていて、セリフとの乖離が生み出す緊張感が弱かった。
 舞台上で日常の身体と見えるためには、俳優の日常の身体をさらけだしただけではダメで、周到な計算が要る。そのあたりへの俳優のアプローチの程度がまちまちで、やや雑駁な印象は残った。
 全体としては、日常生活のなかでのちょっとした「自由」へのいとおしい気持ちを感じ取ることができた。

 この舞台は3日から6日まで6ステージ。ほぼ満席だった。


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