ものすごくダイナミックで切れがよくて、いかにもフランスのダンスというセンスのよさも光る、すばらしいダンスパフォーマンスだった。
どのような分野でも一流のパフォーマンスというものは、大きく惹きつけ強く心を打つ。
8人の若い男性ダンサーによるエレクトロダンスで、学園生活を中心に高校生の一日を、ダンス作品として活写していく。
2000年ごろにストリート・カルチャーとしてパリ近郊から広がったエレクトロダンスは、ヒップホップの影響を受けたフランス育ちの独自のダンス文化としてストリートやディスコで花開かせ、このごろは小学生や幼児たちをも巻き込むほどになってきているらしい。
この「エレクトロキフ」は、エレクトロダンスとしては世界で初めての舞台作品だという。
舞台奥は黒幕で、舞台には教室用の机とイスがそれぞれ8つ。
8人のダンサーたちが、数学、フランス語、体育、給食、試験、放課後などの学園生活を、5分から10分のシーンをつなぎながら描く。全体を通すようなドラマはないが、それぞれのシーンには特徴的な演出と振付が施されていて、高校生の日常生活の豊かさを表現するような構成になっている。
ダンスを引き立てる演出と振付で、ダンサーの力をフルに発揮させる。
演出はシーンごとに音楽とダンスを変えている。振付は力強くてファッショナブルでユーモラスで、シーンごとのおもしろさが際立てる。
エレクトロダンスは、ヒップホップからアクロバティックなところを弱めてコンテンポラリーの要素を入れたという印象。アクロバティックな技よりも形と動きをスタイリッシュに見せる振付がより重要なようだ。
そうは言っても、ダンサーの身体能力は重要で、ダンサーたちは鍛えられた高い身体能力が溢れ出ていてワイルドに見えた。
アクロバティックな技を抑えた分、手足の動きに集中してそこにエネルギーを溜める。特に、手の動きが複雑で微妙で、揉んだり組んだり上げたり回したりといろんな動きを非常に速いスピードでやる。その多彩さで心象表現にまで至っている。
やや生まじめな授業のシーンから始まり、体育のシーンではピアノ曲にあわせてのバスケットボールのダンス。給食のシーンでは悪ふざけ、試験のシーンではアッと驚くカンニング。机をドラムに見立ててのリズムパフォーマンス。積み上げた机を使ったパフォーマンスにインド風ダンス。それぞれに工夫があって楽しい。
ラストはダンスバトル。2チームに分かれて、1人づつ出てソロダンスで競う。ディスコで踊る楽しさが伝わってくるシーンだ。
カーテンコールには、演出・振付のブランカ・リが登場。カッコいい。ダンサー、振付家、女優、映画監督、インスタレーション作家と多彩な活動を続ける、フランスを代表する“アラフォー”だそうだ。
この公演の今回のアジアツアーでは、日本での公演は福岡だけだという。観る機会が少ない世界的なコンテンポラリーダンスの公演。呼んでくれた九州日仏学館に感謝する。
会場のJR九州ホールは、いちばん観やすいはずの10列目あたりの席から、舞台が、特にダンサーの足元が見えにくいのが欠点だ。
この舞台はきょう1ステージ。かなり空席があった。