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《2012.5月−11》

カーテンコール前からスタンディングオベーション
【WARRIOR〜唄い続ける侍ロマン (TEAM NACS)】

作:宇田学 演出:森崎博之
25日(金) 19:00〜21:35 キャナルシティ劇場 7,000円


 甘ったるい荒唐無稽な話を、徹底的なサービス精神で大真面目にやっているところが何とも楽しい、ものすごくわかりやすいエンターテインメント作品だ。
 圧倒的に多い若い女性観客が、カーテンコール前からスタンディングオベーションする気持ちも、わからないでもない。

 関が原の合戦をひかえた家康が、信長、秀吉、光秀、勝家たち戦国武将の生き様を振り返る。

 戦国時代の英雄の史実を手前勝手に換骨奪胎した他愛のない話なのだが、とにかくパワー全開の勢いのある舞台に引き込まれて、2時間をかなり超える舞台なのにアッという間に終わったという印象がある。
 まぁ、「戦のない世を作るために戦った」というのは後付で、みんな必死に生き延びるために戦ったということなんだろうけれど、そんな武将の生き様を徹底的にカッコよく描く。
 そのために盛り上がる要素を、細かいことは無視して大雑把に抽出し、それを架空の面白そうな話で膨らませて、行け行けドンドンとばかりに展開していく。

 桶狭間の戦い以降の家康は「影」であった。
 信長は今川に味方した家康を殺して、絵師だった男を「影」とした。徳川幕府を作るのはこの「影」の家康だ。心が通った家康の妻・子を殺すような苦難を乗り越えて、絵師が武将となっていくという成長物語となっている。
 信長の妻・濃姫の前夫が光秀で、間でゆれる濃姫という「三角関係」。
 そんな「三角関係」が山場の本能寺の変の誘因となっていくが、実はすべては秀吉の筋書きだったということがわかる。そういう説もないこともないようだが。

 歴史上の人物のイメージを借りて若干ねじって、話を個人の思いだけに集約してわかりやすくして、ほとんど絵空事ともいえる話が繰り広げられていく。
 絵空事だから勝手な想像の翼を広げられる。楽しけりゃいいじゃん、という信念に基づく本気の開き直りがその起点となって、大きくわかりやすく展開する話を作り上げていく。
 全体的にあっけらかんとした陽性の雰囲気で、きびしい場面も陰湿ではない。かなり多い殺陣のシーンもすばらしくて、全体的にスカッとした印象を強める。

 舞台転換が非常に手際よくて、スムーズにテンポよく場面を際立たせ転換していく。
 舞台を覆いつくす20段以上もある大階段。舞台は全面を使うこともあれば、2ヶ所3ヶ所のスポットライトを手早く切替えて、一瞬にして場面を変えていく。そのタイミングが絶妙で、グイと舞台に引き込まれる。
 大階段は3つに分かれて中央部がせり出してくる。階段の後ろから強い照明が舞台と客席を照らす。音響も迫力で、演技とみごとにシンクロする。
 5人の武将を演じるTEAM NACSの5人は、それぞれに見せ場がたっぷりで、5人そろってのポーズがみごとに決まった時などほんとに惚れ惚れする。
 とにかくその勢いに身を任せて、ほとんど夢の世界を遊んでいるといった風情にまで連れて行ってくれる。

 なかなか観れないTEAM NACSの公演。やっとゲットしたチケットは2階の最後列。それでも舞台のパワーはビンビン伝わってきた。
 この舞台は福岡ではきょうからあさってまで3ステージ。満席だった。


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