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《2012.9月−2》

テンポよくスッキリ、そして重厚
【リチャード三世 (子供のためのシェイクスピアカンパニー)】

作:ウィリアム・シェイクスピア〜小田島雄志翻訳による〜 脚本・演出:山崎清介
2日(日)14:05〜16:20 北九州芸術劇場 中劇場 2,500円


 重くて暗くなりがちな長いリチャード三世の物語を、シンプルな舞台ながらたっぷりのアイディアを盛り込んで、テンポよくスッキリとみせながら重厚さをも感じさせるという充実した舞台だった。

 15世紀のイングランド。ランカスター家とヨーク家の覇権争いの末にヨーク家のエドワード王が即位したが、王の末弟リチャードは王位を狙って陰謀をめぐらせ、ついには王位に登りつめる。

 「子供のためのシェイクスピア」シリーズらしいシンプルな舞台だが、重厚さも意識されている。
 装置は、1m×1mほどの卓が5、6個と小さな木製イスが5、6個だけで、それを動かす。背景は黒幕。
 俳優たちは大きなフード付きの黒マントを着て、軍隊とか群集とかコーラスとかを演じる。それぞれの役を演じるときは役に合わせた衣装に変える。衣装はゴテゴテはしていないが重厚な雰囲気を漂わせる。俳優たちはそれぞれ4、5の役を演じるので、半端ではない衣装替えをスピーディにこなす。

 実質上演時間2時間が、大きくは3つに分けられる。
 開幕から兄エドワードまでの死、そこからリチャードの王即位まで。そして、そこからリチャードが死ぬラストまで。
 権謀術数の限りを尽くすリチャードの思いと行動は、スッキリと整理されていて分りやすい。リチャードのどす黒い思いは大きく溜められることはなく、いりくりはあってもしつこくはなくて、サラッとドンドン前倒しに進んでいく。そのテンポはけっこう心地いい。

 山崎清介のリチャードはせむしではなくて、長躯でガッシリとしていて威風堂々。重苦しくなる独り言を、腹話術の人形をつけたリチャードの左手とリチャード自身とのやりとりで、軽妙にわかりやすくしただけではなくて、舞台を多彩にしている。
 コンプレックスも悩みもほとんど感じさせないリチャードは、悪事をほとんど信念を持って実行する。そのあたりがドンドン前倒しに進んでいくと感じる所以だ。

 テンポいいから軽いかというとそうでもない。けっこう重厚だ。時間と空間を舞台の上にギュッと濃縮してみせた。
 空間の凝縮には、衣装とコーラスが効果的に使われる。衣装は王宮や戦場などのイメージを呼び起こし、その空間を家臣や将校になった俳優たちがキッチリと強化する。
 そのような工夫がこの歴史劇のおもしろさを再確認させてくれた。

 この舞台は北九州では1ステージ。かなり空席があった。


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