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《2012.9月−3》

じっくりと聴かせる
【柳亭市馬 独演会 (福岡音楽文化協会)】


7日(金)19:05〜21:15 イムズホール 2,500円


 前から聴きたかった市馬師匠の落語。期待に違わず楽しめた。


「薬缶」 (緑太)

 隠居がお茶を飲んでいるところへ八五郎がやってくる。隠居は八五郎を愚者呼ばわりし、「この世に知らぬものはない」と豪語。のっぴきらない状況に追い込まれた隠居が、八五郎の逆襲を完全な知ったかぶりのウソで切り抜けようとする。
 前座の柳家緑太は柳家花緑の6番弟子で1984年の生まれ。師匠に似て口跡はクッキリ。隠居のバカバカしいすらごとをていねいに語る。若干不安定でメリハリに欠けるのはしかたないが、好感の持てるしゃべりで楽しませてくれた。約15分。


「粗忽の使者」 (市馬)

 粗忽ぶりが有名な地武太治部右衛門という侍を見たいという主人の親戚筋の依頼で、用を作って治部右衛門が使者に立てられた。親戚筋の屋敷に着いたはいいが、治部右衛門、口上を忘れて思い出せない。思い出すために応対に出た侍に尻をつねってもらうが、尻に歯が立たない。それを物陰から見ていた大工の留っこがつねりを名乗り出て、釘抜きで治部右衛門の尻をねじ上げる。
 まくらは、緑太の話から花緑、小さんの話、相撲の話などで、約15分。
 さりげなく本編に入ると、じっくりと市馬の世界に引き込んでいく。切れのいい噺をじっくりと聴かせる。それぞれの人物はクッキリと形象化される。武士と職人などその人物の演じ分けがみごとで、特に瞬時の役の切替えの表情の変化の細やかさにホレボレとする。まくらも合わせて約40分。


相撲甚句「鶴と亀」、春日八郎「別れの波止場」 (市馬)

 中入り前の余興で、音曲ネタが得意で歌手でもある師匠がそののどのよさを披露。
 相撲甚句「鶴と亀」は、美声で押出しがよくてなかなかの迫力で聴かせた。
 春日八郎「別れの波止場」は、演歌調にどすが利きすぎていて単調で重すぎ。春日八郎らしい甘さと軽さが感じられなかった。


「御神酒徳利」 (市馬)

 馬喰町の旅籠での師走十三日の大掃除の日。盗られないようにと家宝の御神酒徳利を水瓶のなかに沈めておいた通い番頭の善六だが、そのことをすっかり忘れてしまっていて今さら言い出しにくいので、占いで徳利の行方を占うと偽って徳利の行方を皆に示す。そのことがきっかけで大店から大阪での占いを依頼され、旅の途中に小田原でも占いを依頼される。
 じっくりと得心させるようなしゃべりで、すっきりと収まる。話がわからずにイライラすることもなければ、話が進まずにイライラすることもない。
 全体に心地よいリズムが流れている。それには、単調さを打ち破るための仕掛けが綿密に施されていて、飽きないようにみごとに緩急がつけられている。
 そんな話術で、偽りの占いが小田原でも大阪でも成功してしまうところが、無欲で憎めない善六の人柄からして納得させられる。約50分。


 この公演はきょう1ステージ。少し空席があった。


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