福岡演劇の今トップへ 月インデックスへ  前ページへ 次ページへ


《2012.9月−4》

武田志房の舞に見とれた
【能を楽しむ会 (朝倉市自主文化事業協会ほか)】


8日(土)13:00〜16:20 ピーポート甘木・大ホール 4,500円


 九州ではなかなか観られないシテ方観世流武田家の能楽師を中心とした公演は、能の2つの演目がともに充実していて楽しめた。


 まずはじめに、武田宗典による上演曲のていねいな解説が約20分。


能「小袖曽我」

 源頼朝公が催す富士の巻狩に参加することになった曽我十郎祐成、五郎時致の兄弟は、そこに父の仇・工藤祐経も来ることを知り仇討ちを決意。その前に兄弟は母を訪れる。母は兄の祐成を歓待するが、出家せよとの母の言いつけに背いて勘当の身の弟の時致を拒否する。母の勘気が解けて、兄弟は仇討に向かうことができるのか。

 詞章を見ながら解説を聞き、詞章を見ながら舞台を観た。能の構成と詞章の簡潔さがよくわかる。短い1行のセリフで状況が一変する。それが積み重なってドラマが展開していく。そしてそれぞれのほんとの気持ちが溢れ出て、きびしい状況を乗り越えていく。

 観世流シテ方職分・武田志房の長男・友志と次男・文志の兄弟が曽我兄弟を演じる。母だけが面を着け、直面の兄弟はほんとによく似ている。違和感がないどころか感情移入してしまうほどだ。兄弟の演技は生き生きとしていて、ラストの合舞など息がピッタリでみごとにシンクロする。上演時間55分。


狂言「茶壷」

 茶壺を背負い酔って登場した使いの者が、道ばたに 寝込んでしまう。そこへ通りかかったすっぱ(盗人)が茶壷の荷縄に肩を入れ、目を覚ました使いの者とすっぱが茶壺の所有を争う。そこに当地の目代(代官)が仲裁にる。

 使いの者が謡い舞ながら説明るのをすっぱも盗み見てまねをする。連舞におけるすっぱ(野村万禄)のワンテンポ遅れたまごつき方はユーモラスで楽しい。
 ただ全体的にはしゃべりがくどくて一本調子で、けっこうややこしいセリフがうまくこなれていない。ラストに豹変する悪徳役人に対する風刺も利かない。上演時間25分。


能「船弁慶」

 鎌倉方から追われる身となった源義経は、西国へ逃れようと、愛妾・静も一行に伴って摂津の国大物の浦へ到着する。しかし弁慶の進言もあって静は都に戻ることになり、別れの宴の席で静は舞を舞い涙にくれて義経を見送る。
 義経の船が海上に出るや否や突然暴風に見舞われ、波の上に壇ノ浦で滅亡した平家一門の亡霊が姿を現す。総大将・平知盛の怨霊は義経を海底に沈めようと、長刀を振りかざして襲いかかりる。

 シテは武田志房。清楚な静御前(前シテ)と荒々しい知盛の怨霊(後シテ)をみごとに演じる。志房の立ち姿は寸分の隙もなくて美しい。それが動くときには余計なブレがなくて実に滑らかに動く。それを見るのはとても心地いい。
 武蔵坊弁慶(ワキ)の福王知登が、存在感のある弁慶を演じて目立っていた。
 中入り後の知盛の怨霊登場からアッという間に終幕なのが物足りなかった。上演時間1時間10分。


 この舞台は朝倉ではきょう1ステージ。広い会場だったので後方に空席はあったが、地元の方がたくさん見えていた。


福岡演劇の今トップへ 月インデックスへ  前ページへ 次ページへ