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《2012.9月−8》

磨き上げられた一級のものはすばらしい
【ジャワ・スロカルト王家のガムランと舞踊 (福岡市ほか)】


15日(土)13:30〜15:40 アクロス福岡 イベントホール 無料(事前申込み)


 ことしの福岡アジア文化賞の芸術・文化賞を受けたインドネシアの宮廷舞踊家クス・ムルティア・パク・ブウォノ氏を迎えた市民フォーラム「ジャワ・スロカルト王家のガムランと舞踊〜伝統の源から世界に向けて〜」を観た。
 来福したスロカルト王家(クラトン・スロカルト)の音楽家・舞踊家によるパフォーマンスがすばらしかった。

 クス・ムルティア・パク・ブウォノ氏(スロカルト王家教育文化財団代表、スロカルト王家文書局長)は51歳。スロカルト王家の娘として生まれ、中部ジャワ王家に300年にもわたって代々伝わってきた宮廷舞踊を継承している。王女らしい優雅さの中に芸術家のきびしさが覗く話しぶりが魅力的だ。
 司会・進行・解説・通訳が筑紫女学園大学の田村史子准教授。演奏に使われる楽器は筑紫女学園大学所有のもの。演奏には筑紫女学園大学OGを中心にしたガムラン・グループ「プラティウィ」のメンバーも参加された。


【一部】

○古典曲“ウィルジュン”

 平安・無事をねがって演奏される曲で、ほとんどの楽器と歌が入る。打楽器の余韻じょうじょうで、優美で宗教的な雰囲気。ゆったりとガムランの世界に誘い込んでくれる。演奏時間約5分。

○女性宮廷舞踊スリンピ“ウルシト・ルクミ”

 スリンピは4人の10代の女性による群舞。上手からゆっくりと登場した舞手は、左手に小さな弓矢を持っている。舞台中央でひし形中心のフォーメーションで、全体的には優雅だが、弓矢を使って戦うシーンもある。この“ウルシト・ルクミ”はクス・ムルティア・パク・ブウォノ氏の半生を描いた新作で、弓矢を使って戦うシーンは氏の伝統芸能を守る戦いを象徴しているという。
 宮廷舞踊のテクニックとは、踊り手が意識や感情を外に表出せずに自分の内へと向けるように方向づけるものらしいが、その表現のつつましさ、研ぎ澄まされたシンプルさが高い精神性を感じさせてくれる。上演時間約20分。


【二部】

○お話と実演“ジャワ宮廷舞踊の成り立ち”

 田村史子准教授によるクス・ムルティア・パク・ブウォノ氏へのインタビューという形で、話と実演が約40分あった。興味深い話が多かった。
 身体の構えや手の動きを実際に実演してもらったが、その動きの優雅さにウットリするほど。舞踊とガムランとの関係の話もおもしろかった。ガムランの1曲にはそれを構成する順序だてがあって、一部を聴いただけで演奏がどこまで進んでいるかわかるという。

○瞑想の曲

 文字どおり瞑想のために音量を絞り静かでゆったりとした曲。気持ちよくなって眠たくなってくる。演奏時間10分。

○男性舞踊“クロノ”

 男性荒型のソロの舞踊で、男としての思いを激しく表現する。上半身の肌が半分くらいは見える衣装でのダイナミックな動きだが、宮廷舞踊らしく人間の内面の普遍的な表現に向かっていて、情緒的な表出は抑えられている。それが却っていい緊張を生んでいるという舞踊だった。上演時間約15分。


 磨き上げられた一級のものはすばらしい。美しきものが見られて幸せだった。
 このフォーラムはきょう1回だけ。中高年の参加者が多い。少し空席があった。


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