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《2012.9月−10》

絶叫コンサートに酔う
【ダンス/デカダン 福岡最終公演 (肉体の劇場)】


16日(日)19:35〜21:55 スペースTERRA 3,000円+ワンドリンク(500円)


 「ダンス/デカダン」は、福島泰樹(短歌絶叫)と原田伸雄(舞踏)によるコラボレーションで、これまでに7回ほども開催されてきた。今回の公演は「肉体の劇場 Special 立松和平追悼 ダンス/デカダン 福岡最終公演」と銘打たれていて、「ダンス/デカダン」にいちおう区切りをつけるということで、福岡での最終公演となった。来年2月の東京公演がほんとの最終公演になる。
 「ダンス/デカダン」は、数年前に一度、福岡での公演を観たことがある。そのときは福島泰樹の短歌絶叫の印象ばかりが大きくて音楽のことを意識しなかったが、今回は、石塚俊明と永畑雅人による短歌絶叫と渾然一体となった演奏のすばらしさも実感できた。


【第一部】

○短歌絶叫(福島泰樹)

 観客席の間を通って音もなく現れた黒ずくめの福島泰樹。マイクの前に立って寺山修司や中原中也などの短い詩や散文を10ほど朗読する。
 オープニングなので比較的抑え気味のパフォーマンスだが、その声の切れは鋭くて、作品のもつ土着的な叙情などを鮮烈に引っぱりだして激しく投げつける。それがキリキリと迫ってくる、そんなステージだ。上演時間40分弱。

○舞踏(原田伸雄)

 頭まで白塗りしてゴテゴテのウェディングドレスを着て無彩色の造花を頭につけた、おなじみのスタイルの原田伸雄。細身なのでウェディングドレスがけっこう似合い、端正な顔立ちもあってどことなく可愛い。
 舞踏は、キツネのような鳴き声や生声でアクセントをつけるが、深入りして難渋するようなことはなく、大きくのけぞったりマイクのまわりをグルグル回ったりとよく動いて、軽快でリズミカル。それでいて女の情念は伝わってくる。上演時間約15分。


【第二部】

○短歌絶叫(福島泰樹)

 福島泰樹の話から入る。朗読活動をしながら歌謡の復権・肉声の回復を考えていた福島は、1976年にフォークシンガー龍と出会い、その出会いが絶叫コンサートという独自の表現方法へと展開していくきっかけとなった。そのあとの活動の模様が語られる。
 絶叫コンサートの楽器演奏はずっと、石塚俊明(ドラム・パーカッション)と永畑雅人(ピアノ・ピアニカ)が担当してきた。石塚は頭脳警察の結成メンバーで、永畑は作家・永畑道子の息子。その音楽センスは高く、福島の2人に対する信頼は絶対だ。実際、床に放り出した原稿を拾い上げて読む福島の絶叫にみごとに合わせる。
 最初の「杉並」のあとの「デカダン」では石塚がピアノを担当。そのあとの没後100年の石川啄木の話では、何もかもが奪われていく赤貧生活の中でだからこそ啄木が共感した大逆事件を語り、啄木の「呼子と口笛」を絶叫する。「四季の歌」が聞こえ「大杉栄」「神近市子」「松井須磨子」の名前が聞こえ、なぜか「ピナ・バウシュ」の名前まで聞こえる。
 啄木のあとは、村山槐多の「走れ小僧」などの詩の絶叫。「ガランス」とか「陰嚢」とかいう言葉が聞こえてくる。
 第二部では福島は、自分の情感がそのまま聴く者に届けとばかり、大声を張り上げ、身体を揺さぶり、跳びあがって床を踏みつける。演奏もそのアクションの大きさに対応したメリハリで応える。そんな密度の高さの中に身を置くのは快感だ。ここまで約40分。

○短歌絶叫(福島泰樹) + 舞踏(原田伸雄)

 村山槐多の詩の絶叫が終わったところで原田が登場して、福島とのコラボに。演奏に合わせた詩の朗読と舞踏が繰り広げられる。詩は中原中也など。舞踏は花の枝のオブジェを使ったり、生後2ヶ月の赤ちゃんを抱っこして踊ったり。
 隣の席の客が演奏に合わせて手を叩くのでうるさいと思っていたら、福島がぴしゃりと注意してやめさせた。2人のコラボはアンコールも入れて上演時間約20分。


 終演後の打上げにも参加させてもらった。
 この公演は福岡では1ステージ。満席だった。


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