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《2012.9月−12》

楽しめた5劇団の競演
【劇トツ×20分 (北九州市芸術文化振興財団)】


23日(日)14:05〜16:50 北九州芸術劇場 創造工房 稽古場 1,000円


 演劇バトルになると力が入るのか、上演された5本の作品はよく工夫され、劇団の特徴がよく表れていてそれぞれに楽しめた。

 劇トツ×20分は、「劇王X〜天下統一大会」の九州代表決定戦で、九州各地から集まった5劇団が20分の短編作品を連続上演し、審査員と観客投票により優秀作(九州代表)を選出するという企画。上演作品には、上演時間20分、登場人物は3人まで、というルールがある。
 審査は、審査員の佃典彦(劇団B級遊撃隊)、池田美樹(劇団きらら)の2氏が各25票を、観客が全員1人2票をも持っていて、その合計の得票で優秀作を決定する。


○ブルーエゴナク(北九州) 「オーパニックチューン」 (作・演出:穴迫信一)

 男に、死の病・オーパニックチューンを伝染された女2人の話。出演は女性2人、男性1人。
 速射砲のごとくにセリフが飛び出し、話は飛んで飛んで飛びまくるように見えながら、大きなストーリーがおぼろげながら見えてくる。
 2人の女優のやりとりがほんとに生き生きとしていてテンポいい。埋め草まで含めてセリフのセンスがなかなかで、一見雑多に見せるのも計算のうち。楽しめた。わたしの評価は2位。上演時間約25分。

○非・売れ線系ビーナス(福岡) 「トップオブザ・ワールド」 (作:田坂哲郎 演出:木村佳南子)

 逃亡生活をしている教団の男女は、男の元教え子のところに潜伏している。男のところに「行動せよ」と書いた手紙がくる。3人ともに「行動」の意味を勝手に解釈し、3人とも手紙をやらせだと言い出し、逃亡生活のありようをめぐって口論に。
 逮捕されたオウムの菊池直子などの生活から連想していて、わかりやすいが甘い。リアル化・戯画化ともにもう一歩突っ込んだがいい。わたしの評価は5位。上演時間20分強。

○ぎゃ。(福岡) 「ヤギさん郵便」 (作・演出:中村雪絵)

 二股かけている女。かっこいいほうの男からメールを誤って消してしまった。女はそのメールの内容を訊くために、男の会社・住まい・飲み屋など居場所を訪ねて走り回る。
 女の行く先々の人たちを女性2人で演じる。その演じ分けはテンポいいが、ディテールが弱く雑駁に見える。カラオケやダンスで盛り上げるが、そういう盛り上げ方はわたしは買わない。わたしの評価は4位。上演時間20分強。

○ゼロソー(熊本) 「チッタチッタの脱け殻を (以下略)」 (作・演出:河野ミチユキ)

 正式な題名は「チッタチッタの脱け殻をその縫い目から溢れ出すほどに満たしてと僕ら、こめかみから鬢を伝って汗、入道雲、鳴り止まない蝉の声に掻き消されるようにして蒸発したあの夏のアスファルトに落ちる寸前の、汗と僕らの叫びに棒から滑り落ちたサイダーアイス」。舞台内容を表現しておらず、この題名は失敗。
 チッタチッタ―かわいい音感だが方言で知恵遅れの人を意味する言葉から取っているという主人公の名前。チッタチッタが死んで3年目のお盆に、男女2人の友だちがお参りに来る。霊となったチッタチッタは傍若無人に動き回り、言葉にならない声で2人の友だちに絡みまくる。
 そんな秀逸な設定で、過去と現在、この世とあの世にまたがるチッタチッタをめぐる世界が濃密に立ち表れてくる。チッタチッタとその母とを同じ女優が演じ分けるようなアイディア、演技ともに5作品の中では頭一つ抜けていて、わたしの評価は1位。上演時間20分強。

○ F's Company(長崎) 「ノイジー」 (作・演出:福田修志)

 夜中にうるさいと隣の女性が苦情を言いに来る。うるさい原因は、ひげを生やして大人にしか見えない6歳児。実際にその子を見て、隣の女性は納得する。
 大人にしか見えない6歳児を生で登場させて、パンツ一枚で傍若無人に動き回らせる。そのインパクトは強くて、それほど凄い話でもないのに何となくおもしろいような気になる。主宰が言うところの「ズル」だ。それが見えてしまった。わたしの評価は3位。上演時間20分強。


 上演終了後に作品ごとに審査員の講評があった。全体的に女優がすばらしかった、という意見には同調する。
 審査結果は、「ノイジー」 F's Company(長崎)が優秀作となった。観客審査が111票中44票でダントツ(2位は「ヤギさん郵便」 ぎゃ。(福岡)の31票)。審査員審査では50票中29票と60%近い得票率で、いくらなんでもこれは異常だ。そこまでダントツのできではない。採点方法の問題だろうとは思うが、何か思惑でもあったのかと気になってしまう数値だ。
 運営方法について言わせてもらえば、わたしのような一般客を遠ざけるような「演劇人のお祭り」臭が強かった。例えば、司会者が参加の劇団主宰者などを「クン」づけで呼んでいる。そのことに違和感があった。上演順についても一般客に見せるような工夫があってもいい。かってE-1グランプリは一般客が多かった。劇トツでも一般客を意識して増やしていく努力をするべきだ。

 このイベントはきょう1ステージ。満席だった。


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