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《2012.9月−14》

リフレイン体験、納得と不満と
【ワタシんち、通過。のち、ダイジェスト。 (マームとジプシー)】

作・演出:藤田貴大
28日(金)19:05〜20:55 北九州芸術劇場 小劇場 1,800円


 リフレインという技法の効果は体験することができたが、ややたいくつな舞台だった。生身の俳優がリフレインという技法で的確に表現することのむずかしさを感じた。

 8月20日の午前8時。100年経った古い家が取り壊される。
 そこで育った三姉弟妹たちとそのまわりの人々の思いを通して、かっての家のたたずまいとそこで営まれていた生活がノスタルジックに浮かび上がってくる。

 ことしの岸田戯曲賞を獲得した藤田貴大の新作で、この舞台は藤田作品の特徴であるリフレインの多用、というか、ほとんどリフレインだけで作られているという舞台だ。リフレインとは“アングルを変えた反復”であるとして、単純な反復であるリピートと区別している。
 何十回となく繰り返されるセリフは、間髪をおかずに執拗に繰り返されるものもあれば間歇的に繰り返されるものもある。セリフはたまに変化し、セリフのしゃべりや俳優の動きは少しずつ変化する。間隔の空いた長い露光のストロボ画像でも見るような機械的な印象だ。当然に基本となるセリフは非常に少なくて、描く時間の進捗は非常に遅い。
 俳優たちはリフレインを、緩急をつけて場所を動きながら演じていて、ダイナミックに変わる集団的なフォーメーションも舞台の重要な要素となっている。終盤には雑音っぽい大きな音量の音楽のなかで俳優たちが一斉にリフレインするという、カタルシス誘発というかストレス発散のシーンも用意されている。終盤にわずかに1、2ヶ所あるリフレインしないセリフがものすごく印象的に聞こえる。

 劇場の床面の大部分を十字型の敷物の舞台が覆い、その舞台の中央奥に簡易な家の形の台が乗っている。客席は劇場の隅っこに70席ほど。出演者は10人で、1人が1つの役を演じる。
 執拗とも感じられるリフレインに身をまかせていると、確かにじんわりと情況が浮かび上がってくる。繰り返されることでセリフが身体になじんでくるという感じは確かにあり、微妙に変わっていく繰り返しで自分の中でじわじわとイメージができてくる。そのイメージが少しずつ変化しながら積み重なっていく。
 それでもなお続くリフレインのなかで、自分の生まれた家がなくなったときのことを思い出す。三姉弟妹たちとイメージを共有し同じ思いを感じて三姉弟妹たちにみごとに感情移入させられ、帰る場所がなくなるという喪失感まで感じてしまった。ほんとに作者の思うつぼだ。
 大きな流れでそこまでもっていくのはいいのだが、どう考えても全体を通してリフレインのやり過ぎだ。途中から自転車が出てきたりして目先が変わって、若干ペースアップしてクライマックスの一斉リフレインに行くのだが、それでも全体を通しては多すぎるリフレインに飽きてきて、あくび連発してしまった。

 リフレインが多すぎると感じるのは、リフレインの精度にも問題がありそうだ。
 確かにリフレインはメリハリをつけてていねいにやられてはいる。だが、リフレインの演技の精度がまだまだ低くて、それぞれのリフレインが十分に際立たないためにリフレインごとの差がクッキリとはせずに、繰り返しの中に流れが見えてこない。それがどこか鈍重に感じさせて、たぶん途中で飽きてくる理由だ。
 ただ、リフレインの過程で自分の気持ちの動きが自分で確かめられるという感じを持った。そんなおもしろさも確かにあるにはある。

 岸田戯曲賞の選評でも痛く評価されたリフレインだが、技法としてほんとに画期的なものなのだろうか。
 この舞台を観て思い出すのは太田省吾の「駅」シリーズの超スロー沈黙劇だ(「福岡演劇の今」では他の演劇人の作品との比較をしないことを原則としているが、ここは容赦を)。超スローにすることで見えたものがあって衝撃的だったが、3本で終わったのはそれでやり終えた感が太田省吾にあったからだろう。
 リフレインについては、現代口語演劇の藤田貴大流のデフォルメ手法であって、ものすごく懐の深い技法というわけではない。作者はリフレインをさらに発展させてリジェネレート(甦らせていく)を企図していて、観ていて自分の家のことを思い出すなどこの舞台でもその一端を体験できたが、そのような効果はリフレイン・リジェネレートという技法に寄らなくてもできるのではないか。
 今のように全編リフレインでなければならないのか、そのあたりも含めてとにかくリフレインにこだわる作者が、この技法をやり終えた感があるところまで突き詰めていく様を見届けたい。

 この舞台は28日から30日まで4ステージ。満席だった。


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