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《2012.10月−3》

ユーモラスで心地よいダンス
【東京タンゴ秋 (マドモアゼル・シネマ)】

原案・振付・演出:伊藤直子
5日(金)19:05〜20:35 イムズホール 3,000円


 テーマとストーリーがはっきりしたダンスシアター作品で、マドモアゼル・シネマの生き生きとしたユーモラスなダンスが楽しめた。

 カエルの王様が「村民は生まれてから死ぬまでいかなる時もポワント(トゥシューズ)を履くこと」いう「ポワント条例」を発令。村長の指導のもと村民はポワントを履いて美しく生活しようとするのだが。

 この「東京タンゴ」は、マドモアゼル・シネマのレパートリーとして何回も上演されてきた作品で、「一つのことを強いられることから生じる理不尽さと滑稽さを踊る童話仕立てのダンスシアター」とある。
 観客には開演前にリーフレットとともに「『ポアント条例』発令の号外」と「「最軽量・最安値のポアントをウニクロから発売したニュース」のペーパーが配られ、ストーリーはそれで見当がつく。
 この舞台には、マドモアゼル・シネマの7人の女性ダンサーに、今回はバレエの尾本安代とコンテンポラリーダンスの松本大樹が客演している。

 マドモアゼル・シネマの7人の女性ダンサーの伸びやかな肢体が躍動するダンスはほんとに楽しい。7人そろってムカデなどの集団演技をストーリーに合わせて踊る動きが何ともユーモラスで、声を上げて笑ってしまうシーンも多かった。ただ、ゲストとの絡みになるとどこか中途半端になってしまう感じがあった。
 コンテンポラリーダンサーたちはポアントをけっこううまく履きこなす。普通にポアント履いて演技したり踊ったりというシーンではポアントを履いたことによるちょっとした緊張感が却って楽しかった。

 このダンスには「『ポワント』を中心に放たれる、バレエの持つ普遍性と、コンテンポラリーダンスの持つ独自性のリアルな対比」というテーマもある。
 その表現の1つが、コンテンポラリーダンサーのポアント体験だが、トゥで立ちながらいろんなことをする動作ではポアントの不自由さを表現してはいたが、ダンサーたちはポアントをけっこう履きこなしていて違和感が少なく、ポアントのむずかしさがうまく伝わってこない。
 対するバレエの尾本安代は、出番がそれほど多くなくて、それもソロでの短いダンスが多くて、ポアントを使ったダンスの魅力が十分には表現されないのがもどかしかった。もっと超絶技法をみせてほしかった。
 尾本安代がコンテンポラリーダンサーと踊るシーンでも、うまく融合もせず際立ちもしない。そんな演出なのかもしれないが、振付にもっと工夫があってもよかった。尾本安代と松本大樹との15分以上のダンスバトルでもやってくれれば、テーマがもっと鮮明に顕れたかもしれない。

 本編終了後に、ワークショップで2時間で作り上げたという東京タンゴ秋の一部を、20人ほどのワークショップ参加者といっしょに踊った。コミュニティダンスの指導に長けていることがよくわかった。
 この舞台は福岡では1ステージ。ほぼ満席だった。


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