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《2014.11月−4》

静謐さを湛えた透明な緊張感
【HAPPY (ブルーエゴナク)】

作・演出:穴迫信一
7日(金)13:10〜15:00 関門海峡ミュージアム(海峡ドラマシップ)多目的ホール プレゼントチケット


 キレのいい短いシーンをテンポよく積み重ねていって、ドロドロしたものを重くならずにファッショナブルに音楽劇として描いてみせた。このところ観た地元演劇ではいちばんの収穫という舞台だった。

 コウちゃんが死んだ。その仲間たちの手前勝手な思いやおぞましい愛憎関係が、交錯しながらじわじわと浮かび上がってくる。観ながら人物相関図を自分の頭の中で組み立てていかねばならない。そんなちょっとばかりめんどうなところがこの舞台のおもしろさでもある。

 多目的ホールの中央が舞台で、両側に合わせて60席ほどの客席。舞台にはキャスター付きのやや大きめのテーブルがあって、それを移動させて各シーンを作る。舞台そばには数個のイスと衣装が掛かったハンガーがあって、出番待ちや軽い衣装替えはそこで行う。
 開演時間になると主宰の穴迫信一が出てきての前説がそのまま結婚祝いのスピーチとなって冒頭のコウちゃんの結婚披露宴のシーンに入っていく。コウちゃんのグループのメンバーを中心とした男女の、結婚・不倫・裏切り・誘惑・片思い・勘違いからの期待や失望などのドロドロとした人間関係が、コウちゃんの死を契機にしてあぶりだされていく。およそ“HAPPY”とは言い難い状況の中でのたうち回る様を描いていく。

 リーフレットには俳優名と役名しか書かれていないから、人物の言葉の端々から相手との思いと関係とを観る側で読み取って、人物相関図を頭のなかに作っていかねばならない。
 舞台は、5分ほどの短い場面をテンポよく積み重ねて展開していく。そのテンポのよさで、おぞましいところを掘り起こすような厳しい場面までも足踏みせずに駆け抜けていて、それぞれの人物の状況と痛みや虚しさは伝わってくる。そのようにして徐々に人物相関図が浮かび上がってくる。
 セリフの言葉選びは的確だ。短かくてキレのあるセリフのわかりやすい会話で、ときにラフな話題を挿みながら、人物の個性を描き場面の情感を引っぱり出していく。頻繁に出てくる回想シーンとの場面転換もスムーズで、意識の流れを切らない。

 俳優たちは、押えたスマートな演技でとても魅力的だ。ムダのない動きで透明で張りつめた舞台を作り上げている。それぞれの俳優の言葉や動きが緊張感のある舞台全体を揺るがせ、それが言葉や動きを発した俳優にも還ってくる。微妙な雰囲気をうまく表現していた。
 音楽のイイジタカヒロは、舞台の一隅でイスに座ってギターを弾いて歌って、舞台をじゃませずにキッチリとはまる。音楽はそれほど多くはないけれど、音楽なしではこの舞台は成り立たないと思えるほどに舞台を魅力的にしている。
 全体的には、やや暗い厳しい内容をファッショナブルな楽しめる舞台にした熱意と技量を賞賛したい。前作からそれほど間がなくてこれだけの舞台を作ったブルーエゴナクのパワーを感じた舞台だった。

 この舞台は海峡演劇祭参加作品で、きょうからあさってまで5ステージ。満席だった。


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