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《2014.11月−6》

すごいものを観てしまった
【何処から誰が (国東半島芸術祭)】

構成・振付・美術・照明:勅使川原三郎
8日(土)17:15〜19:05 並石ダムグリーンランド(豊後高田) 3,000円


 ダム湖全体を使った光と音の壮大なパフォーマンスは幻想的なのに鮮烈で、これは何なんだ?と口あんぐり。すごいものを観てしまった。

 会場から数キロ離れた旧小学校跡に車を置いて、そこから会場まではシャトルバスで。会場に着いた参加者は全員、遊歩道散策と鑑賞が融合した体感型パフォーマンスという目的に沿って、まず並石ダムの周りの遊歩道を午後5時過ぎから約40分かけて一周する。並石ダムは山々に囲まれた大き目のため池という感じだが、入り江などがあって一周は2キロ以上になる。前半は明るい道だが、後半は木々が覆いかぶさる暗い道が多い。
 歩いて行くと湖畔から高く聳える“鬼城岩峰”が目に入る。大きな横穴が開いていてむかし鬼が住んでいたと言われる奇岩の峰は、大きな目の一つ目小僧のように見えてけっこう不気味だ。遊歩道の途中には勅使川原三郎作のオブジェ「月の木」と「光の水滴」があって、高さ6メートルもあるガラス片を挿した棒状の「月の木」は、パフォーマンスの背景としても重要な役割を果たす。歩き始めたときはまだ明るかったが途中で暗くなってきて、参加者は貸与されたペンライトを灯して歩く。その様は蛍のように見える。

 パフォーマンス会場は入り口近くの入り江の周りで、150席ほどの客席が土産物店の前の水辺に沿って作られている。客席に座ると、入り江の向かい側の遊歩道が正面に60メートルほども続き、そのいちばん左手の岬の岩の上に「月の木」が見える。右手は入り江の奥で遊歩道が手前から奥に伸びていて途中に橋が見える。遊歩道のいちばん手前に赤毛氈が敷いてある。左手はダム湖の中央部に繋がる水面で、その向こうのいちばん高いところに“鬼城岩峰”があるはずだが暗くて見えない。
 午後6時20分過ぎ、すべての灯りと音が消されて闇と静寂がしばらく続く。荘重な読経のようにも聞こえる大音声が地の底から沸いてきて巷を包み、照明が変化しながら湖上と山を照らして荘厳な風景が浮かび上がる。“鬼城岩峰”の横穴が確認できるほどに強く照らされる時もある。これだけで完全に別世界に持っていかれる。

 正面の遊歩道に明かりが入って、左手の岬の影から7人の僧が聲明を唱えながら登場して、それぞれの間に4、5メートルの距離を取りながらゆっくりと正面の遊歩道から右手の遊歩道を進んで来る。国東半島の天台宗寺院の僧侶による“天台聲明”は実によく通る声で朗々として雄々しい。僧たちの衣装はカラフルで豪華だ。
 僧たちのあとから勅使川原三郎をはじめとする3人のダンサーが真っ白な衣装で登場し、正面の遊歩道にバランスよく位置して、まず初めは僧たちの聲明に合わせてのかなり押えたパフォーマンスだ。客席から正面の遊歩道まではかなりの距離があって、ダンサーたちはほんとに小さくしか見えないが、実にキレがいい動きでダンスのパワーは伝わってくる。光の中のダンサーたちが水面に映って揺れる。
 僧たちが赤毛氈の上に並んで座りそれ以降は、真っ暗ななかで聲明だけを聞かせたり、聲明をスピーカーからの伴奏と合わせて聞かせたりするが、その伴奏と合わせた聲明は山や湖面に木霊して摩訶不思議な音となってあたりを覆う。ダンサーたちはその音のなかで思い切りダイナミックな動きのダンスを繰り広げる。正面の遊歩道での2人あるいは3人でのダンスだけではなく、「月の木」の下などでソロダンスをするが、右手の橋の上での佐東利穂子の衣装を翻してのソロダンスがすばらしかった。もちろん全体を通して勅使川原三郎のダンスは際立っていた。パフォーマンスは約40分の上演演時間で満席だった。途中少しぱらついてきたが何とかもってよかった。

 このイベントは、国東半島芸術祭のパフォーマンスプロジェクトの1つ。「何処から誰が」の前にサイトスペシフィックプロジェクトの「真玉プロジェクト」を見た。チームラボが手がけたデジタルインスタレーションはいつまでも見ていたいほど気持ちよかった。いずれのプロジェクトでも担当者にていねいな対応をしていただいた。国東半島芸術祭のイベントをまわるバスが運行される。芸術祭と地域の結びつきを感じることができたのもよかった。


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