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《2014.11月−9》

説明しすぎて緊張なし
【豚の骨 (飛ぶ劇場)】

作・演出:泊篤志
13日(木)14:00〜15:50 北九州芸術劇場 小劇場 キタコレ(6演目)セット券13,500円


 緊張感のない説明ゼリフばかりが滔々と繰り出されて、目を瞑っていてもわかるという舞台だった。

 地球最後(になるだろう)と言われる日、ラーメン屋台「豚菜亭」はスープ売切れで閉店準備中。そこに、3年前にここで出会ったというカップルが最後のラーメンを食べに来る。
 追い返すのはかわいそうと思った店員がどうにか1杯だけラーメンを作ることにしたら、ラーメン食べたい人がどんどん出てきて・・・。

 舞台には、中央やや上手奥にラーメン屋台があってイスが8個。中央やや下手前にはテーブルがあってイスが4個。下手奥には傾いた電柱があって街灯が灯っている。
 開演時間の14時に店主役の山口恭子が出てきてラーメン屋の仕事の説明。豚の骨を12時間かけて煮込む、とかいう話。臭い豚骨ラーメン屋は、下処理をしないで豚の骨以外の部位もいっしょに煮込んでいるから臭い、という説明を聞いて、臭い豚骨ラーメン屋の横を通ると吐き気を催すわたしとしては、そういう店で食べてはいけない、という勉強にはなった。
 そのあと前説があってから開幕。

 カップルのあとから続々出てくるラーメン食べたい人。ラーメンブロガー、ご当地戦隊アイドル(男)とそのファンの男、自殺願望の若い女性2人 と、どんどん増えていく。そのたんびにそれぞれが言いたいこと言ってゴチャゴチャと引っぱる。
 たぶん意図的だろう、ボーダーをはっきりさせない。地球はほんとにきょう滅亡するのか。宇宙人と結託しているアメリカだけは助かるというのはほんとか。町では略奪が起きているらしい。ときにドーンと大きな鳴動音が響く。だけど、中途半端な状態に置かれた人々に切実さはない。
 半ばにさしかかったところで“天の使い1”(日替りゲスト2人)が登場して、ゴチャゴチャあったあと、神の意思で地球は滅亡する、と宣言して去る。それでも人々の様子は変わらないが、カップルの男の方の妻が現れて様相は一変して、ささくれ立った雰囲気になる。カップルは2人とも既婚で、最後のときを愛人と過ごすために思い出のラーメン屋に来たのだった。カップルの女の方の夫も現れて、2組の夫婦の間はまわりも巻き込んで紛糾する。

 後半も登場人物たちのゴチャゴチャは続くが、後半も半ばに達したころに“天の使い2”が現れて、上の方の方針が変わって天の意思で地球の滅亡は順延された、と告げる。そこに“天の使い1”が再登場して再び、天の意思で地球は滅亡する、と宣言して、“天の使い1”も“天の使い2”も去る。家庭と愛人の板ばさみになったカップルの男は、自分で決断したくなくて「世界、終わりましょうよ!」と叫ぶ。
 修羅場が落ち着きかけると突然にラーメンの話に戻って、あすのために仕込んでいるスープでみんなで乾杯する。“われわれは生き物の生命をもらって生きているのだ”と言って。そのあとでカップルの男の妻は、息子を殺したことを男に告げる。

 この舞台、突っ込みどころが多すぎて宙ぶらりんのまま放り出されたという印象しかないのは、長々と書いてきたあらすじのように、ごまかしだらけの脚本だからだ。
 決まらない“ボーダーレス”状態がモチーフなのかと思ったりもするが、だったらアプローチが違う。宙ぶらりんでもかまわないが、狙ってやっているのではなくてただ戯曲の質が悪いからというんじゃどうしようもない。
 とにかく登場人物はよくしゃべるが、ほとんどが伏線にもならないその場限りの説明で、言わずもがなのことをときにクドクドと繰り返す。それらしい身体表現はほとんどないから、目を瞑っていても話にはついていける。群集劇だから同時多発でもやってくれればいいのに、ダラダラセリフを俳優は静止しながら聞いている。セリフを6割がた削ったらスッキリして身体表現の余地も出てくるだろう。

 内容について言えば、まず、ラーメン屋での“最後の食事”といいながら、最後になるかどうかもわからないんじゃ前提条件が成立しない。世界の終わりの肯定派/否定派の2つの“天の使い”の登場も、SFにもファンタジーにもスピリチュアルもならずに劇団仲間のお遊びに堕していて、大きく視点を変えて別のステージにもっていくことはない。もともと薄いリアリティを吹っ飛ばすだけだ。
 カップルの男の妻が息子を殺したことを、ほんとに最後の最後になって妻は語る。普通は大事なことを先に話すはずだが、いかにも後出しジャンケン的に脚本が逃げているのは、カップルの男がスピンアウトしてしまうことを避けるためで、姑息としか言いようがない。
 結局、ラーメンと終末論と不倫はただ並存しているだけで絡まず、それらををねじり上げてドラマにするところまで行っていない。だから、ラーメンのスープでの乾杯でお茶を濁すということになるのだ。

 この舞台は13日から16日まで6ステージ。少し空席があった。


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