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《2014.11月−11》

サービスたっぷりの福田演出
【THE 39 STEPS (エイベックス・ライヴ・クリエイティヴ)】

原作:ジョン・バカン 原作映画:アルフレッド・ヒッチコック 脚色:パトリック・バーロウ 上演台本・演出:福田雄一
15日(土)18:05〜20:40 場所:キャナルシティ劇場 9,000円


 役者4人で139役を演じるというコメディを、演出の福田雄一はクラウンの2人に134役を演じさせて、サービスたっぷりに工夫し膨らませた楽しい舞台だった。

 1935年のロンドン。ハネイは、助けたアナベラと名乗る女性から国の重要な機密情報の国外流出の危機にあることを知るが、直後アナベラは何者かに刺殺される。ハネイは敵国のスパイや警察に追われながら、真犯人を探してスコットランドに向かう。

 映画やテレビでの活躍が著しい福田雄一は演劇畑の出身。一度その舞台作品を観たいと思っていて、ようやく実現した。
 この「THE 39 STEPS」は、ジョン・バカンの小説「三十九階段」が原作のヒッチコックの映画「三十九夜」を、イギリスで2006年にパトリック・バーロウの脚色で舞台化されたものをもとに、福田雄一が上演台本と演出を担当した舞台だ。2006年の舞台はイギリスやアメリカで数々の賞を受賞し、現在も各国で上演されている。日本では2010年にデイヴィッド・ニューマン演出で上演されている。福田雄一は5年前にブロードウェイでの上演を観てから、自身の演出での上演を考えてきたという。
 4人の出演者は、ハイネに渡部篤郎、ヒロイン(4役)に水川あさみ、クラウンに安田顕と佐藤二朗と、福田雄一がはじめに希望した理想のキャスティングが実現したということらしい。

 舞台は奥が一面レンガ作りの壁。最初と最後の劇場のシーンでは上手と下手に高いバルコニー席が現れるが、通常の場面転換は主にテーブルやソファなどの調度品とその位置を替えることによって実に迅速に行う。
 見どころは何といっても、安田顕と佐藤二朗の2人に134役を演じさせる早替わりだ。2人が次にどういう役でどういう格好で出てくるのか?という興味だけで舞台に引きずり込まれてしまう。ほんとに、2人は出ずっぱりに近いのに、多様な人物はむろん動物から暖炉の炎の役まで、実にうまく衣装やメイクを替えていって、ビックリの連続だ。
 そのあたりはもちろん脚本と演出で十分練り上げられていて、佐藤二朗が体の左右2面で2役を演じたり、衣装替えのトラブルをわざと見せたりもする。もともと、ただの話ですませることなくどんな小さな役でもすべて実際に登場させて、クラウンの2人がキリキリ舞いするところを楽しもうというのがこの舞台のメインの趣向なのだ。

 映画「三十九夜」を見ていなくて2006年の舞台の脚本も読んでいないので、この舞台での福田雄一の工夫がどの部分でなされているのかは想像するしかないのだが、早替わりなどの基本的なアイディアは2006年の舞台に依っているはずだ。
 ブロードウェイなどの舞台を日本人キャストで上演する舞台にはつまらないものが多くて、あまり観ないし観ても失望することが多いのだが、この舞台は2006年の舞台をもとにしながら福田雄一流に膨らませているから、コピー臭はほとんどない。
 福田雄一の真骨頂はたぶん、それぞれの場面のこれでもかとばかりにアイディアを詰め込んでいくこと。それもおもしろければ何でもありとばかりに、影絵などのオーソドックスなものに加えて、極端なことやアホみたいなことを入れ込むことも厭わない。それを福田組ともいうべき安田顕と佐藤二朗がみごとにこなしていく。
 そんなふうにこの舞台は、福田雄一的にパワーアップしていて、福田雄一的にものすごく楽しいものになっている。このレベルの舞台をオリジナルで作ってほしいとも思うけれど、それはないものねだりというものだろう。

 ヒッチコックに敬意を払ってヒッチコック監督作品の映画の名前を入れ込んでいく。セリフのなかに入れ込んでいるものも多いが、例えば、高いハシゴをわざわざ舞台に運んでそれに登った佐藤二朗が下を見て「めまい」と叫ぶ。ここで観客が誰も笑わないのは悲しい。
 書き洩らしたので書いておくと、マリオネット的な動きの安田顕のミスターメモリーが秀逸。佐藤二朗がアドリブで、親友の西日本新聞の記者・塚崎健太郎氏が来場していることを言っていた。大千秋楽なのでカーテンコールに福田雄一が登場して、出演者ひとりひとりに感想を話してもらった。話す途中で水川あさみが感極まって泣き出した。

 この舞台は福岡ではきのうときょうで2ステージ。満席だった。


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